石垣島浦底湾で観察されたサンゴの白化現象

橋本和正・澁野拓郎・阿部寧・高田宜武

(石垣支所亜熱帯生態系研究室)

〔研究の概要〕
 1998年夏季の海水温の異常上昇によって、当支所地先の浦底湾でサンゴの被覆度がどのように変化したかを調査した結果、優占的な地位を保っていたミドリイシが白化によって著しく減少していたが、キクメイシの被度には全く変化がなく、サンゴの種類によって高水温の影響に違いのあることが明らかとなった。
〔背景・ねらい〕
 これまで当支所地先の浦底湾においてサンゴ礁生態系の基礎的知見を得るために、毎年2回定期的な調査を行ってきた。それによると、1998年まで当湾のリーフエッジには美しいサンゴ礁が広がっていたが、夏季に水温が異常に上昇したためか、サンゴが白くなり(白化と呼ばれる現象)、その年の秋までに多くのサンゴが死んでしまった。サンゴは魚介類の隠れ家や食料となる大事な生き物であり、サンゴが死んでしまうと漁業へも大きな影響を与える恐れがある。そこで、本研究では、1998年夏季を境に石垣島浦底湾のサンゴの被度がどのように変化したかについての調査を行った。
〔成果の内容〕
 @ 1998年8月下旬から白化現象が始まり、9月中旬には台風6号による撹乱もあり、サンゴの被度は8月の28.7%から10月の2.8%まで減少していた(図1)。また、この時ミドリイシの被度は大幅に減少したが、キクメイシの被度にはほとんど変化が認められなかった。そして、1999年1月には調査ラインのミドリイシは全滅してしまった。
 A コドラート調査では、1998年8月にはミドリイシ属が最も多く、その平均被度は55.6%であったが、高水温と台風により、1999年2月には0.4%まで減少した(図2)。これに対してハナヤサイサンゴ属の平均被度は1998年8月と1999年2月で何れも0.7%であり(同じ調査区)、高水温以前から低い値であったが、変化が認められなかった。
 なお、@の調査方法は、リーフエッジに長さ100mの調査ラインを1本設置し、ラインを横切るサンゴの長さを測定することにより面積を推定した。Aのコドラート調査は、リーフエッジに幅1m、長さ9mの調査区画を1つ設置し、この区画を長さ50pごとに枠を置いて写真撮影を行い、写真の枠内に写っている全てのサンゴの面積を測定した。サンゴは種類の見極めが難しいため、科や属といった大まかな分類法により、ミドリイシ属については枝状とその他に分けて分類した。
 以上述べたように、今回の調査ではミドリイシ属が選択的に被害を受けていることが判明した。しかし、海水の高水温と台風が重なったため、今回の白化現象が高水温のみで生じたとは断定できないかもしれない。今後、フィールド調査や飼育実験等によりこれらの点について検討していく必要があろう。