1998年夏のサンゴ白化が石垣島浦底湾の生物群集へ与えた影響
澁野拓郎・高田宜武・橋本和正・阿部 寧
(石垣支所亜熱帯生態系研究室)
〔研究の概要]
  1998年夏の大規模なサンゴ白化がサンゴ礁生物群集に与えた影響を調査した。サンゴが白化して死ぬとサンゴの骨格は藻類に覆われ、ワレカラ類、ヨコエビ類等が生息するようになった。沖合のサンゴ礁ではこの藻類の繁茂に伴い藻食性のニザダイ類の個体数が増加した。
〔背景・ねらい〕
  1998年の夏に琉球列島の島々で高水温のためサンゴが白くなって死んでしまうサンゴの白化現象が起こった。亜熱帯生態系研究室では、当支所地先の石垣島浦底湾で1996年から年2回づつサンゴとそこに住む生物群集の調査を続けてきた。そこで、今回のサンゴの白化がサンゴ礁の生物群集に与えた影響を解明するため、サンゴが死んだ1998年秋以降とそれ以前のサンゴの状態及びそこに住む魚類群集、ワレカラ類、ヨコエビ類等小型甲殻類の種類、数を比較した。
〔成果の内容〕 
@ 浦底湾沖合のサンゴ礁ではほとんどのサンゴは白化後に死亡したが、岸近くのサンゴは白化してもほとんどが死亡せず、回復した(図1)。死んだサンゴは2週間程で糸状の藻類に覆われ始めた。これらの藻類は翌年の春までにマット状の藻類へと変わった。 
A サンゴに住む生き物は、サンゴが死んで共棲していたカニ類がいなくなった後、骨格が糸状の藻類に覆われると先ずワレカラ類を代表とする小型甲殻類が出現した(表1)。翌年の春にマット状の藻類が繁茂し出すとワレカラ類に代わりヨコエビ類やゴカイ類が増加した。このワレカラ類の増減と藻類の変化が関係していることは興味深い。
B 沖合のサンゴ礁では魚の数はサンゴの白化前後で違いはなかったが、種類数は減少した。魚を食性グループ毎にみると、サンゴの白化後に生きたサンゴのポリプを食べる魚はいなくなり、死んだサンゴの骨格にはえた藻を食べる魚、主にニザダイ類の数が急に増加した(図2)。岸近くでは、サンゴの白化前後を通して雑食性の魚類が多くみられ、白化の前後で魚の数、種類数は変わらなかった。また、沖合でみられたような白化後に藻食魚の急激な増加はみられなかった。サンゴの白化後に沖合のサンゴ礁でサンゴ・ポリプ食魚の数が減少し、藻食魚の数が増加したことは、サンゴの白化によってそれらの魚の餌の量が大きく変化したことと、岸近くではサンゴが白化してもほとんど死ななかったことに深く関わったと思われる。沖合のサンゴ礁でサンゴ・ポリプ食魚の数が減少したのは、サンゴの白化により沖合のサンゴ礁ではほとんどのサンゴが死んでしまい、餌がなくなったためと考えられる。一方、沖合のサンゴ礁で藻食魚の数が急に増加したことは、サンゴの白化の影響をあまり受けなかった岸近くに生息していたニザダイ類が、白化後に餌である藻が著しく増えた沖合部に集まってきたためではないかと推察される。