マングローブ域に生息する希少巻貝類の分布と成長
高田宜武・阿部寧・澁野拓郎・橋本和正
(石垣支所亜熱帯生態系研究室)
〔研究の概要〕 
 マングローブ域に生息するアマオブネガイ科の巻貝4種類は種類毎に微妙に生息域が異なっていた。その中の1種シマカノコガイの成長速度を調べたところ、亜熱帯域にもかかわらず季節的に大きく変化することが明らかになった。
〔背景・ねらい〕 
 マングローブ域は川から流れ込む淡水と海水が混合する熱帯・亜熱帯に特有な環境である。そこには、特殊な生息場所を要求する生物が多く生息するため、生物の多様性が高く、希少生物の宝庫である。アマオブネガイ科の巻貝類は海岸から河川上流域まで分布する藻食性の小型巻貝類で、今回研究対象としたシマカノコガイ・ドングリカノコガイ・ツバサカノコガイ・イガカノコガイの4種類はマングローブ域の最も陸域寄りに生息するため、人間活動の活発化に伴い生息地が減少しつつある。そこで、その分布や生活史などの生態を解明し、マングローブ生態系内での役割を明らかにする必要がある。
〔成果の内容〕
 調査地は石垣島北部のマングローブ域で、1方向より汽水が出入りする袋小路になっている(図1 )。4種類の貝類は調査地内に一様に分布するのではなく、片寄って見られた(図3 )。ある場所では、25p角の正方形の中に15個体もの高密度で貝が見られたが、少し離れると全くいなかった。4種類の貝は種類によって分布のパターンが異なり、シマカノコガイは汽水の水路の両側と奥側に分布し、ツバサカノコガイは水路中央部のくぼんだ場所に分布した。また、ドングリカノコガイは奥側の地面の高い場所に多く、逆にイガカノコガイは入口側のやや低い場所に多く見られた。 
 4種類の中で、最も個体数の多かったシマカノコガイに標識をつけて、季節ごとの成長を調べた。亜熱帯域であるにもかかわらず、成長速度は冬期に小さく、夏期に大きいという明確な季節性を示した。12月に殻長3oであった個体は、翌年8月には9oとなり、生後1年半ほどでほぼ最大サイズに達するものと思われる。しかし、季節的にサイズの組成や個体数が大きく変化することから、死亡率が非常に高いことが推測される。
 このように、マングローブ域のこれらの巻貝類は季節的な個体数の変動が大きく、パッチ状に分布するため、個体数や現存量の推定には注意しなければいけない。これらの貝は微小な藻類などの有機物を餌にしているが、速い成長から考えると、吸収同化した有機物量は大きく、マングローブ域の水質浄化作用の一端を担っていることが推測される。また、高い死亡率は、カニなどの餌として消費されたことを示しており、マングローブ生態系内での食物連鎖を考える上で無視できない存在である。しかし、種類によって生息環境が細かく異なるため、生態系内での役割については、今後も詳しい研究が必要である。