サメ類等の漁業被害調査と生態
矢野和成・清水弘文・小菅丈治
(石垣支所沖合資源研究室)
〔研究の概要〕 
 サメ類等の高次捕食性魚類の漁業被害の実態調査を実施し、被害を減少させるための方法の検討を行った。また、クジラ類で行われている個体識別法を大型魚類に適用させるさせるとともに、サメ類資源の有効利用と資源管理のために必要な生物学的知見を蓄積した。
〔背景・ねらい〕
 サメ類は食物連鎖の頂点に立つ生き物であり、海洋生態系をバランス良く保つためには重要な生き物である。一方、サメ類は人的な被害をおよぼしたり、漁獲物や漁具に被害を与えるなどの問題もある。第9回のワシントン条約締約国会議において野生生物保護の観点から、サメ類に関する情報収集等を求める決議が採択された。1999年2月にはFAO水産委員会において、サメ類の保護管理に関する国際行動計画が採択され、サメ類の資源管理も重要な問題となってきた。しかし、サメ類の中には分類が混乱しているグループもあり、これまで種類別の漁獲統計は不備で、さらに資源管理を行うため必要な生物学的特性値についてはほとんどの種類で十分に明らかにされていない。そこで、本研究では、サメの分類の見直しを行い、各種がどのような生物学的特性をもつかについて明らかにすることを目的とした。
〔成果の内容〕 
 八重山諸島周辺海域で操業している一本釣り漁業、かご網漁業、電燈潜り漁等でもサメ類による食害が問題になっている。この海域では各漁業形態ごとに1年間に1回程度のサメ駆除事業が実施されている(図1 )。被害状況調査と合わせて、駆除されたサメ類の種類別の生物学的特性値を把握するための調査を実施した。被害を防止するための基礎的実験として忌避物質や誘因物質の実験を行い、種類によっては特定の臭い刺激に強く反応することや、弱い電気刺激がサメ類の忌避物質として有効であること等が判明した。
 クジラ類で多く用いられている体の特徴を指標として行う個体識別法を大型魚類で初めて試み、オニイトマキエイ(マンタ)の腹部にみられる斑紋を用いて個体識別が可能なことが明らかになった(図2 )。また、これと関連して、ダルマザメの咬傷を指標とするマグロの系群判別への道が開かれた。これらの手法が確立できれば、回遊性の高い大型魚類の研究へ大いに利用が可能となり、資源密度、移動・回遊経路についての研究が期待される(図3 )。
 琉球列島周辺海域に生息する軟骨魚類は34科110種にのぼり、このうちサメ類は22科77種類であった(図4 )。この海域には日本の周辺海域に分布することが知られているサメ類の約65%の種類が生息していることになる。これらの食性、年齢・成長、成熟全長等に関する知見を得た。
 これらの研究はサメ類の有効利用と資源管理のためには重要な調査であり、琉球列島周辺海域が日本国内においてもサメ類等の研究を行うための適地であることが明らかになった。