ソデイカの移動・回遊
矢野和成・清水弘文・小菅丈治
(石垣支所沖合資源研究室)
〔研究の概要〕
  超音波発信器を用いたバイオテレメトリー手法によるソデイカの日周期遊泳行動、移動回遊経路に関する調査を実施し、ソデイカの産卵回遊や索餌回遊に関する知見を得ることができた。
〔背景・ねらい〕
 ソデイカ漁業は平成元年に日本海から沖縄県に導入され、八重山海域では平成2年から操業が開始された。ソデイカ漁業は新しい漁業であるにもかかわらず、最近では沖縄県の漁業の中でも重要な位置を占めていることから、資源を有効的・持続的に利用するために資源管理型漁業を推進していかなければならない。ソデイカの分布状況、日周期移動、産卵回遊、索餌回遊等に関する知見は本種の資源管理を実施していく上で重要であるが、ほとんど知られていない。すなわち、ソデイカは水深約500m付近で漁獲され、漁場の水深は1,000m以上の海域であること以外の生態的な特徴については全く不明である。そこで、本研究では、超音波発信器を用いたバイオテレメトリー手法によるソデイカの移動・回遊等を中心とした生態学的知見を得ることを目的として行った。
〔成果の内容〕
 平成9年2月には海洋水産資源開発センターと共同でソデイカに50kHzの深度センサーをそなえた超音波発信器(長さ10p、水中重量35g)を装着して、本種の移動回遊経路、日周期の鉛直移動に関する調査を行い(図1)、平成10年度からは沖縄県水産試験場との共同研究を実施した。調査に用いたソデイカは外套長が約70〜80pの大型の個体であり、日中は水深約300〜500mの間を、夜間には水深約0〜150mの間を遊泳し、この範囲内で鉛直移動が繰り返し行われていた(図2)。日没前には急激に遊泳水深が上昇し、日出時には遊泳水深が急激に深くなっていった。交接が終了し、雄の精嚢をすでにもっている雌の成体が産卵期近くの春先に南下回遊を行った(図3)ことから、ソデイカの産卵場所は八重山諸島のはるか南方海域であることが示唆された。南下回遊時の遊泳速度はほぼ一定で、毎時約2qであった。一方、秋季には明確な南下回遊は認められず、ジグザグな水平移動であり、索餌を目的とした移動であることが推定された。
 これらの成果は、ソデイカの産卵場の発見、分布密度、移動・回遊経路を把握するための調査に重要な情報を与えるとともに、今後の資源管理を行うために不可欠な知見である。