ウナギの地域間の遺伝的な違い
加藤雅也・小林正裕・栗原健夫・水戸啓一
(石垣支所沿岸資源研究室)
〔研究の概要〕
資源管理に最も重要な知見である集団構造(系群)に関する情報を得るために、産地の異なるウナギシラスのDNA分析による系群解析の予備調査を行い、その可能性が十分にあることを確認した。
〔背景・ねらい〕
 日本人に親しまれ、土用の丑の日に蒲焼きとして大量消費されるウナギ(Anguilla japonica)の成魚は、繁殖のために数千キロの大海原をグアム島がある太平洋マリアナ諸島西部海域まで回遊し、産卵する。そして、そこで産まれたウナギの幼生は、海流に乗って台湾、中国大陸、朝鮮半島及び日本へシラスウナギとして到達し、河川に遡上すると考えられている(図1)。ウナギの人工種苗生産技術は未だ確立しておらず、養殖種苗は100%天然シラスに依存している。近年、東アジアにおけるシラス捕獲量の減少は台湾や日本の養鰻業者にとって深刻な不安材料となっているが、中国で養殖されている安いヨーロッパウナギの大量輸入のため消費者にはあまり知られていない。しかし、ヨーロッパウナギのシラスも最近は減少しており、天然ウナギの資源管理の必要性が提唱され、系群解明が急務となっている。そこで、本研究では、産地の異なるシラスウナギの系群の違いを明らかにすることを目的として行った。
〔成果の内容〕
 水産資源を適切に管理をするためには、対象種がどの様な生活史に関するパラメーター(生長率、死亡率、産卵数など)を持っているかを推定する必要があるが、その前にどの様な系群があるかを知ることが重要である。もし、台湾と日本のウナギが遺伝的にある程度異なれば、そのような地域間で無秩序に移植や放流を行うことは、資源管理の点で問題である。沿岸資源研究室では、遺伝資源実験室(図2)で遺伝子(DNAなど)やその生産物のタンパク質を生化学的手法によって、魚類等の集団構造を調べている。ウナギ研究は、RAPD(その生物の塩基配列情報がなくても調べられる簡易的DNA解析)法により、DNA多型を調べている。予備実験では、19種類の10塩基のランダムプライマー(遺伝子増幅の始まりを決定する塩基対)からバンドが得られた。図3の17標本の左から1、9及び17番目はマーカーであり、2〜4及び10〜13番目は宮城県産、5〜8及び14〜16番目は鹿児島産のシラスウナギである。図3によると全部で遺伝子型は6型が認められ、そのうち4型の産地が重なっておらず、標本間に遺伝的差異が存在すると考えられる。今後、標本数を増やして集団間の遺伝的差異を検出し、資源管理に反映させる予定である。 
 ウナギの産卵場がマリアナ諸島西海域のほぼ限られた場所であるとされていることは1つの系群であることを示唆するが、産卵期は5〜11月の複数の新月に行われるとされている。つまり、遺伝的分化が産卵時期の違いによって生じている可能性も考えられ、今後、産卵時期の異なった集団を調べる研究も必要である。