八重山海域における沿岸性魚類の稚仔魚の分類と分布
小林正裕*・清水弘文**・水戸啓一*・加藤雅也*・栗原健夫*
(*石垣支所沿岸資源研究室、**沖合資源研究室)
〔研究の概要〕
 異なる採集方法によって捕獲された稚仔魚の種類及びサイズの違いから、稚仔魚の生息特性を推定した。しかし、形態による稚仔魚の判別は多くの魚種で科のレベルまでであり、属以下の判別を行うには生化学的判別法を用いなければならないことが明らかとなった。
〔背景・目的〕
 八重山海域を含む亜熱帯域の沿岸性魚類は種数が多く、その中には産業的に重要な魚種も多数含まれる。しかし、近年、多くの重要魚種の漁獲量が減少し、資源量の枯渇が心配されている。資源量を維持し、持続的漁獲を行うためには、重要魚類の有効な資源管理が必要となる。そのためには、魚種ごとに産卵→孵化→成長・回遊→成熟→産卵に至る生活史全般の解明が必要であるが、この海域における沿岸性魚類の卵稚仔に関する情報が少ないうえ、重要魚種においても稚仔魚の分類が進展していないのが現状である。そこで、本研究では、八重山諸島周辺海域の沿岸性魚類の卵稚仔を稚魚ネット等で採集し、形態による判別及び生息特性の推定を試みた。
〔成果の内容〕
 複数の採集方法で八重山諸島沿岸海域に生息する稚仔魚を採集した。稚魚ネットは表層曳き及び傾斜曳きを行い、集魚灯は浦底湾内の石垣支所桟橋において大潮時に、砕波帯ネットは支所前浜で行った。その結果、採集方法によって獲れる魚種の異なることが判明した(表1)。これらの結果から、稚仔魚の生息特性が類推できる。つまり、フエフキダイ科、フエダイ科、タカサゴ科等の重要魚種の仔魚は稚魚ネット表層曳きでは採集されなかったが、傾斜曳きで採集されたことから、これらの魚種の仔魚は表層よりも少し深いところに生息しているものと推定できる。また、集魚灯により採集されたフエフキダイ科の稚仔魚は傾斜曳きで採集された魚よりも大型であったことから、フエフキダイ科の稚仔魚は成長に伴いやや沖合の中層から沿岸の表層に移動することが推定できる。
 しかし、稚仔魚の形態的特徴は乏しく、科以下の属・種の分類群まで判別することはほとんど不可能である。たとえば、フエフキダイ科の中でもフエフキダイ属の仔魚は後頭部に鋸歯状の隆起を持ち(図1−a)、前鰓蓋骨の隅角部には長大な棘がある(図1−b)という特徴をもつが、フエフキダイ属全てでこのような特徴をもつかどうかは不明であり、また種ごとの形態的特徴が不明なため細かい判別は不可能である。これらはフエダイ科(図2−a〜c)やタカサゴ科(図2−d)においても同様であり、多くの重要魚種で科までの特徴しか明らかになっていない。したがって、属以下の厳密な判別を行うためには、生化学的手法を用いて判別を行う必要があると考えられる。