亜熱帯食用貝類の形態・生態の海域間の違い
|
栗原健夫・水戸啓一・加藤雅也・小林正裕
|
(石垣支所沿岸資源研究室)
|
〔研究の概要〕 |
亜熱帯域の食用巻貝カンギクにおいて、石垣島の場所によって棘の長さ、殻の形、密度と潮位の関係、小型個体の出現頻度や生活様式が大きく異なることが明らかとなった。これらの原因究明のために遺伝的特性や生活様式を海域ごとに調べなければならないであろう。 |
〔背景・ねらい〕 |
亜熱帯域沿岸のサンゴ礁域にはシャコガイ類、砂浜域にはアサリ類など、食用となる貝類が多く生息している。これらの貝類の生息場所は飛び石のように離れ離れになっており、それに合わせて貝類も互いに離れたグループを形成しながら生きている。このようなグループはそれぞれ異なる環境におかれ、グループごとに生活様式が違うかもしれない。また、各グループは交配しない可能性があり、遺伝的特性が異なるかもしれない。遺伝的特性や生活様式が異なれば、グループごとにきめ細かな資源管理を行う必要が生じる。そこで、沿岸資源研究室では、このような可能性を転石帯(石の転がっている浜辺)に生息する食用巻貝のカンギク(Lunella
granulata)について沖縄県石垣島で検討した。 |
〔成果の内容〕 |
@ カンギクの殻の形を波あたりの違う7つの転石潮間帯で比較した。その結果、
棘の長さ、体重に対する殻の重さの割合、殻の横幅に対する縦長の比は、すべて、波あたりの強い転石帯において大きいことが明らかになった(図1)。 |
A カンギクが多く分布する潮位を1998年3月に3つの転石帯で比較した。カンギクの生息密度は、伊原間及び崎枝の転石帯では基準面+0.5〜1.0mの潮位でピークに達したが、当支所の地先の大田の転石帯ではこれらより低い潮位でピークに達した(図2) 。 |
B カンギクの体長組成の季節的な移りかわりを崎枝と伊原間の転石帯で比較した。崎枝では1997年9〜12月に0〜3.5oの小型個体が多数出現し、新しい世代が加入したようであった。しかし、伊原間ではこのような小型個体は各季節ともほとんど出現しなかった(図3)。 |
C 離れ離れに生息するカンギクのグループは、殻の形から判断して、遺伝的に異なる可能性が推測された。また、分布の様子や体長組成から判断して、生活様式の異なる可能性も推測された。 |
したがって、亜熱帯沿岸海域で離れ離れになって生活する食用貝類カンギクの資源を管理するためには、遺伝的特性や生活様式の海域間の変異を調べる必要があると考える。 |