人工衛星から見た先島諸島周辺の海況
西濱士郎・岡慎一郎・阿部和雄
(石垣支所海洋環境研究室)
〔研究の概要〕
 人工衛星によるリモートセンシングで得られたデータを基に、東シナ海と南西諸島周辺海域の海表面水温分布画像を作成した。その結果、春先の宮古島冷水渦の存在、黒潮の流路縁辺部での水温分布、1998年夏の高水温の概況等が明らかになった。 
〔背景・ねらい〕
 1957年に人工衛星が初めて打ち上げられて以来、気象衛星「ひまわり」や資源探査衛星「ランドサット」など幾つもの衛星が打ち上げられ、天気予報や地球環境の観測、天然資源の探査など様々な場面で活躍している。ここで紹介するのは、地球観測衛星NOAAから観測した海の表面水温の画像である。遠く離れた宇宙から海の温度を知るためには、海の表面から放射されている赤外線の量を測る。赤外線は熱線とも呼ばれ、物の温度が高いほど沢山放出される。赤外線はヒトの目には見えないが、NOAAには赤外線計測機が搭載されていて、南極と北極を結ぶ軌道を回りながら、地球の表面から放射される赤外線の量を測っている。観測したデータは電波で地上に送られ、世界各地で分析されている。当石垣支所にも受信システムが設置されており、昼夜を問わず送られてくるデータを解析している。海の温度の分布とその季節変化や年変動を調べて行くと、漁場と水温との関係、海洋生物や地球環境への影響などが分かってくる。
〔成果の内容〕
 図1 は1997年3月11日に観測した先島諸島周辺海域の水温画像である。図の色は温度の違いを表しており、紫色から青→黄→赤となるほど温度が高いことを示している。陸地は黒く抜けているが、陸地以外で黒く抜けているのは、雲がかかっていて海面が観測できなかった所である。宮古島の東南に周りよりも水温が低い場所が丸く見えるが、これは「宮古島冷水渦」と呼ばれるもので、春先にできることが知られている。この年にはおよそ2週間にわたってこの冷水渦が発生していた。図1で東シナ海の真ん中あたりに、水温差がはっきりしている場所が南西から北東に伸びている。これは黒潮の流れとその境目を示しており、この図から、黒潮の流路の境目付近は真っ直ぐではなく、うねりながら、時には渦巻きながら流れていることが分かる。
 図2では、1998年夏の高水温の様子を示してある。この年には真夏に台風が少なかったために、海水の温度が上がり、それがサンゴの白化現象の一因となったと言われている。これらの図は、1週間分の画像を重ね合わせて、雲で抜けた部分を補ったものである。また、図2は図1に比べ水温差を強調して表している。一見して1998年の図が真っ赤であり、水温の高いことが分かる。ちなみに八重山諸島周辺の海水温は、1997年は28℃から30℃、1998年は29℃から33℃、1999年は29℃から31℃であった。