石垣島宮良川河口域における動物プランクトン
岡 慎一郎・西濱 士郎・阿部 和雄
(石垣支所海洋環境研究室)
〔研究の概要〕
 石垣島宮良川のマングローブ河口域において、低次生産生物である動物プランクトンの出現状況を経時的に調査し、潮汐に伴う環境変化と動物プランクトン組成との関係等を明らかにした。
〔背景・ねらい〕
 河口域は陸域からの様々な負荷物質が海域に流入する場所であり、潮汐の影響により複雑な環境状態を呈する。このような水域における低次生産生物の動態を明らかにすることは、沿岸海域の生産力を推定する上で重要である。また、亜熱帯のマングローブ河口域は沿岸海域やサンゴ礁域に分布する魚介類の保育場としても重要であると考えられ、その餌料環境を評価する意味でも、低次生産生物の動態を明らかにする必要がある。以上のことから、石垣島宮良川の河口域における動物プランクトンの出現状況と環境要因についての調査研究を行い、両者の関係を解析した。
〔成果の内容〕
@ 調査点は河口から約500m上流で、潮汐の影響を大きく受ける。そのため塩分濃度は満潮時には30‰を上回り、干潮時には10‰前後まで低下した(図1)。
A 動物プランクトンの殆どはカイアシ類のコペポディッドとノープリウスで占められていた。カイアシ類以外では、被嚢類、毛顎、クラゲ類、端脚類、タナイス類、線虫類、ベントス幼生等の様々な動物群が出現したが、その出現頻度は極めて低かった(図1)。
B 卓越したカイアシ類は、Acartia fossaePseudodiaptomus ishigakiensisOithona dissimilisOithona simplexであった(図2)。これらのカイアシ類のうち、A. fossaeO. simplexは塩分が30‰前後かそれ以上の場合に高い頻度で出現したが、一方、P. ishigakiensisO. dissimilisは塩分が20‰前後もしくはそれ以下の比較的低塩分の場合に高い頻度で出現した(図3)。このことら、前者は満ち潮によって沿岸の海水とともに河口内に運ばれた種であり、後者は汽水環境に適応した亜熱帯河口域を代表する種であると考えられた。  
 亜熱帯河口域にはフエダイ科やアイゴ科等の多くの有用魚介類の幼稚魚が出現し、カイアシ類はそれらの重要な餌料の一つであると考えられる。本研究では、定量的な調査が不十分であったが、卓越するカイアシ類やそれらの出現頻度と塩分に関する研究結果は、今後の亜熱帯河口域における生産力の研究や餌料環境の評価・保全及び種苗放流事業等における場所や次期等の選定に関して、有効な基礎資料になると考えられる。