アミメノコギリガザミ稚ガニの住み場特性
皆川 恵*・林原 毅*・佐野元彦*・玉城泉也*・福岡弘紀*・浜崎活幸**
(*石垣支所資源増殖研究室・**(社)日本栽培漁業協会八重山事業場)
〔成果の概要〕
 増養殖対象種として有望なアミメノコギリガザミの増養殖場造成のための基礎的知見を得る目的で、その住み場特性及び底質に対する選択性を明らかにした。
〔背景・ねらい〕
  ノコギリガザミ類は主にインド・西太平洋に分布する水産上極めて重要な仲間で、4種に分類されている。わが国では利根川以南の太平洋岸に分布しており、アミメノコギリガザミ(図1 )は主として沖縄等南方地域で、トゲノコギリガザミは浜名湖等本州で主な漁獲対象となっている。両種はともに高価で成長も早いため、栽培漁業の対象種として期待されている。東南アジアでは、最近、マングローブと共存可能な養殖対象種としてノコギリガザミ類の養殖技術開発に力が入れられている。これらノコギリガザミの増養殖技術を開発するためには天然個体の着底期の生態を解明する必要がある。そこで、当研究室ではアミメノコギリガザミを対象に着底期稚ガニの住み場特性や底質の選択性等について調査を行った。
〔成果の内容〕
 @ 稚ガニは干潟の低潮線付近では全く採集されなかったが、着底初期にはマングローブ分布域よりも海に近い河口域に多く分布しており(図2 )、その密度は0.03〜0.73個体/uであった。分布密度と生息環境との間には明瞭な関係は認められなかったが、干潮時に低塩分となる河口域で分布量が多い傾向がみられた(図3 )。また、ある程度成長すると河口域より淡水の影響が明瞭な上流に分布の中心を移す傾向がみられた。
A 稚ガニの底質粒径に対する選択性を比較したところ、人工種苗と天然稚ガニとの間に相違は認められなかった。すなわち、甲幅5mm以下では分布数は0.063o以下の粒径で高かったものの、それ以降では0.063o以上0.125o未満の粒径に多く分布していた。
B 潜砂可能な粒径は天然稚ガニの方が人工種苗よりも大きい結果が得られた。また、同じ粒径における潜砂に要する時間は人工種苗で個体差が大きく、長いという結果が得られた。 以上のように、人工種苗と天然稚ガニとの間で潜砂能力に差異が認められたことから、増養殖場造成の際には対象群の由来に留意する必要がある。また、アミメノコギリガザミを増養殖対象とする場合、放養場所として底質は極細砂以下の粒径で、淡水の流入のある河口域が望ましいことが判明した。
 この研究成果はアミメノコギリガザミを対象に増養殖場の造成を行う場合の適地の選定に役立つことが期待される。今後、本種の増養殖を進めるためには住み場の収容力や共食い防除などに関する基礎的研究が望まれる。