ヤイトハタ養殖における好ましい飼育環境
林原 毅*・佐野元彦*・玉城泉也*・皆川 恵*
中村博幸**・大嶋洋行**・仲盛 淳**
(*石垣支所資源増殖研究室・**沖縄県水産試験場八重山支場)
〔成果の概要〕
 熱帯・亜熱帯海域における養殖対象種として注目されているヤイトハタの飼育条件について検討した結果、シェルターの設置が当歳魚の成長等の面で効果のあることが明らかになった。
〔背景・ねらい〕
 ハタ類は熱帯・亜熱帯海域の水産物としては最も高級な魚類であり、沿岸漁業の重要な対象種となっている。中でも、ヤイトハタは成長が早く、飼いやすいことから、養殖対象種として有望視されている。沖縄県内では1997年度から種苗の量産が可能となり、各地で海面養殖が始まっている。しかし、養殖場ではヤイトハタが団子状に群れて自由な遊泳行動をとらず、摂餌が不活発で成長が悪いといった現象も見られ、養殖技術の確立が急務となっている。そこで、ヤイトハタの飼育条件、特に明るさやシェルターの有無が当歳魚の行動、成長や疾病のかかり易さに及ぼす影響を飼育実験により検討した。
〔成果の内容〕
 @ 4段階の照度とシェルターの有無による行動特性の変化を赤外線モードを備えたビデオカメラで記録した。高照度下では、  ヤイトハタが水槽壁面に密着して自由な遊泳行動をとらず、シェルターへの執着が強まり、摂餌行動が抑制される等の行動   特性が示された(図1 )。
 A 明るさとシェルターの有無による成長への影響を調べるために、100lの黒色ポリエチレンタンクを屋外に設置し、明区はそ   のまま、暗区は遮光ネットで99%以上の遮光をし、シェルターには塩ビ管T型継手を3個入れて20日間の飼育を行い、増重量  や摂餌量を調べた。その結果、シェルターの設置により成長率の向上が明らかになったが、高照度に対しては馴れる傾向が  見られ、遮光による効果は認められなかった(表1 )。
 B 疾病に関する試験では、遮光区、シェルター区及び対照区にそれぞれ10、20、40尾の健常魚を収容して9つの実験区を設  定した。それぞれにマダイイリドウィルスを腹腔内接種した魚を3尾ずつ入れた後、40日間の飼育を行い、へい死状況等を記   録した。その結果、8つの実験区では感染が確認され、累積死亡率は70〜100%に達した。密度や遮光の有無による一定の  傾向は見られなかったが、シェルターを入れた実験区では累積死亡率が50%を越えるまでの日数が他より長い傾向が見ら   れた(図2 )。
 以上の結果から、ヤイトハタの養殖においてシェルターの設置が有効であることが明らかになったが、今後、網生簀養殖への応用や、適したシェルターの形状及び数等についてはさらに検討が必要であろう。