人工衛星により得られた東シナ海の水色分布とまき網漁場形成の関係


[要約]
人工衛星水色画像から東シナ海植物プランクトン分布の特徴を抽出し、マアジ・マサバのまき網漁場との関連性を検討した結果、それらの漁場が水色前線黒潮前線に挟まれた比較的水の澄んでいる水域に集中していることが明らかになった。
西海区水産研究所 東シナ海海洋環境部 生物環境研究室
[連絡先]    095−822−8158
[推進会議]  西海ブロック
[専門]      生物生産
[対象]      プランクトン
[分類]    研究

[背景・ねらい]
広い大陸棚と複雑な海洋環境を背景として生物生産性が高い東シナ海は、中国、韓国、日本などが入会いで利用する世界的な好漁場である。アジ・サバ類を主対象として開発されてきたまき網漁場の漁場形成機構に関する知見は、漁獲統計や海洋観測結果等をもとにしている。一方、近年人工衛星による水色観測が開始されたことから、海洋の一次生産者である植物プランクトン現存量の分布を広域的・同時的に把握できるようになり、海洋学的研究並びに水産業への実利用に向けた研究が活発化している。本研究では、人工衛星海色センサーによって観測された東シナ海の水色画像をもとに、植物プランクトン現存量(クロロフィル濃度)の空間分布と季節変動の特徴を抽出し、マアジ・マサバの大中型まき網漁場との関連性を検討した。

[成果の内容・特徴]

  1. 東シナ海におけるクロロフィル分布を人工衛星水色画像(月平均値)で広域的・同時的に見ることによって、クロロフィル濃度が最大となる季節は水域によって異なり、中国大陸沿岸水では夏季、黄海では冬季、大陸棚の混合水域及び九州西方水域では春季であることがわかった。
  2. 中国大陸沿岸から広がるクロロフィル高濃度水の水色前線はそのような季節変動に伴って大きく移動したが、クロロフィル低濃度水である黒潮の前線は周年を通して大陸棚斜面付近に形成された。
  3. マアジ・マサバの大中型まき網漁場は、その水色前線と黒潮前線に挟まれた比較的水が澄んでいる水域に形成されていることが示された。
[成果の活用面・留意点]
衛星画像は、マアジ・マサバの漁場形成機構を考える上で、生息水温と餌料環境等を総合的に判断するための有効な手段となる。植物プランクトン現存量の季節変動が水域により異なる要因の一つとして、冬季における海底からの再懸濁物や夏季の河川流入等の影響による画像データの不正確さが考えられることから、船舶観測にもとづく検証研究により精度を上げる必要がある。今後は衛星観測と漁場形成が同期しているデータを比較検討することによって前線や渦などの微細な海洋構造に対応した漁場形成機構に関する研究を行う必要がある。

[具体的データ]
図1 人工衛星水色画像に見られた水色前線と200m等深線(黒線)
図2 人工衛星海色センサーOCTSが1996年12月に観測した海面クロロフィル濃度(A)と海面水温(B)並びに大中型まき網により漁獲されたマアジ(C)とマサバ(D)の分布



[その他]
研究課題名:日本周辺海域における一次生産及び関連諸量の推定に関する研究
予算区分:科学技術振興調整費・総合研究
研究期間:平成10〜12年
研究担当者:横内克巳、岡村和麿、清本容子、長田 宏、浅野謙治
発表論文等:なし

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