クロアワビ天然稚貝の発見数の年変動及び分布における大型海藻との関係


[要約]
クロアワビ稚貝の発見数は変動が大きく、加入量の変動によるものと推測された。また、殻長3cm以上の個体の胃内容物には海藻が増え、分布が大型褐藻と重なることから、海藻の存在がその後の分布成長を大きく左右することが明らかになった。
西海区水産研究所 海区水産業研究部 資源培養研究室
[連絡先]     095−833−2695
[推進会議]  西海ブロック
[専門]       資源生態
[対象]       あわび
[分類]       研究

[背景・ねらい]
クロアワビは暖流域の沿岸岩礁域に生息する重要な漁獲対象種である。漁獲量の向上を図るため各地で人工種苗の放流が継続して行われており、種苗放流後の成長・移動・回収率などについては多くの知見が得られている。しかし、天然個体の加入量や稚貝の分布に関する知見は極めて少なく、種苗放流の適地選定や放流量の決定などの隘路となっている。そこで、天然域における加入量や稚貝の分布に関する基礎的な知見を得るために、1991年から定線を設けて潜水による計数調査を行った。

[成果の内容・特徴]

  1. 100m×1mの調査枠3箇所で発見されたクロアワビの個体数は年により大きく変動し、合計で7〜136個体であった。殻長組成から明らかに当歳貝と認められる個体が10個体以上発見されたのは、1991〜97年(調査を行わなかった94年を除く)の6年のうち91、92、96、97年の4年であり(図1)、天然個体群の加入量は年による変動が大きいことが推察された。。
  2. 調査域では、91〜95年は大型褐藻がほとんど見られなかったが、96年以降、アカモク、イソモクを中心とする大型褐藻が水深0〜2mの範囲に見られた(図2の横軸10〜50mに相当)。98年3月の調査では生後1年以上を経たと考えられる殻長3cm以上のクロアワビは、優占する大型褐藻であるアカモクの分布域でのみ発見され、アカモクのないところではそれよりも小型の個体がわずかに発見されただけであった(図2)。
  3. クロアワビの切片を作成し、胃内容物に占める餌の類別(大型海藻とそれ以外)と量を面積比で測定した結果、大型海藻の割合は成長とともに増加し、海藻の割合が殻長約2cmで半分を越え、3cmでは80%以上となった(図3)。
  4. 以上の2点から、1年以上を経たクロアワビにとって、大型褐藻の存在が分布・成長を左右すると考えられた。
[成果の活用面・留意点]
今後、天然個体群での加入量調査の精度評価や持続的な調査により、個体群の変動に及ぼす加入量の影響を評価するとともに、幼生の数が少ないのか生き残りが悪いのかを明らかにする必要がある。今回の調査域は転石帯かつ貧海藻域であり、今後、岩盤域や海藻(特にアラメ・カジメなどのコンブ目海藻)の繁茂域においても同様の調査を行う


[具体的デ−タ]
図1 発見されたクロアワビの殻長組成
図2 クロアワビとアカモクの分布
図3 クロアワビ胃内容物中の海藻の割合


[その他]
研究課題名:クロアワビの個体群維持機構の解明と種苗放流技術の向上
予算区分:大型別枠研究(バイオコスモス)
研究期間:平成元〜10年
研究担当者:清本節夫
発表論文等:Size dependent changes in habitat,distribution and food habit of juvenile disc abalone Haliotis discus discus on the coast of Nagasaki Prefecture, southwest Japan. Bull. Tohoku Natl. Fish. Res. Inst., No. 62, 1999.

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