グリコーゲンを指標としたタイラギ資源の生理状態
圦本 達也・渡辺 康憲
(西海区水産研究所海区水産業研究部海区産業研究室)


〔成果の概要〕
タイラギの生理状態を貝の活力指標としてグリコーゲンに注目して検討した。禁漁期間になる春季から夏季にかけての調査から、産卵放精が7月後半から8月にかけて行われたことを確認した。グリコーゲン量の分析からは、4月まで順調に蓄積され最大値となるが、水温の上昇と産卵期を迎える夏季には著しく減少することを明らかにした。
〔背景・ねらい〕
タイラギ漁は有明海で冬季に行われる主要漁業の一つであるが、平成11年度の漁獲量はほぼゼロとこれまでにない不漁であった。これを受けて有明海沿岸の福岡・佐賀・長崎・熊本の4県は平成12年から原因究明のための調査を実施している。当研究室では同年2月から福岡県水産海洋技術センター有明海研究所が実施する月1回のタイラギ資源量の調査に参加し、タイラギの健康診断基準の確立を目的として性成熟過程と活力の指標となる体内のグリコーゲン含量の季節推移を調査した。
〔成果の内容〕
  1. 福岡県大牟田市地先のタイラギ漁場に5定点を定め、平成12年2月から8月までヘルメット式潜水で月1回タイラギを採集した(図1)。各地点毎に5個体を無作為に抽出し、閉殻筋(貝柱)、外套膜、中腸腺の3器官のグリコーゲンをアンスロン法による比色法で定量した。また、同一個体から生殖腺を取り出し組織切片を作製し、染色を施して組織を観察した。
  2. 卵巣、精巣とも2月には細胞間を結ぶ間質組織の割合が多いが、生殖腺の成長に従いこの割合は減少し、卵母細胞、精母細胞の密度が高くなった。卵巣は5月以降に卵が観察され、6月には卵がほぼ成熟したと考えられた。精巣は4月まで精母細胞で占められていたが、5月以降は精細胞が認められ、7月には精子が観察された。8月には産卵放精後の個体が多く確認された(図3)。これらのことから、有明海産タイラギの性成熟過程は2〜4月が成長期、5〜7月が成熟期、8月が放出期に区分できる。
  3. グリコーゲン含量は、閉殻筋では4月まで順調に増加し、最大値70〜80mg/gを示した(図4)。外套膜でも4月に最大値18〜25mg/gとなり閉殻筋と同様に推移した。5月以降は閉殻筋と外套膜で、共に蓄積量の減少傾向が観察された。中腸腺ではグリコーゲン蓄積の季節変化は観察されなかった。また、各器官の性別による蓄積量の違いも観察されなかった。
  4. 生殖腺の成長期にあたる2〜4月はグリコーゲンが体内に順調に蓄積されるが、成熟期を迎える5〜7月および放出期の8月にはグリコーゲン含量が減少傾向を示した。このことから、タイラギは春季に蓄積したグリコーゲンを消費しながら夏季の産卵期を迎えることが明らかになった。また、グリコーゲン量の減少は、夏季の水温上昇と性成熟によるエネルギーの消耗が増大したことが主な原因として考えられた。
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