アミメノコギリガザミ人工種苗の放流調査手法の開発に向けて


[要約]
アミメノコギリガザミの放流調査のネックになっているのは、@脱皮成長するため通常の標識が困難なガザミ人工種苗と天然個体との識別、A人の入りにくいマングローブ域での稚仔の採集方法の困難さの2点である。前者については、遺伝子分析法によって人工種苗と天然稚仔が簡便に識別できることが示された。後者については、魚類餌料による稚仔の採集が可能となった。これらの成果を用いることにより、放流調査の効率化と高度化が期待される。
西海区水産研究所 石垣支所 資源増殖研究室
[連絡先]  0980-88-2571
[推進会議] 西海ブロック
[専門]   増養殖技術
[対象]   他のカニ類
[分類]   調査
[研究戦略別表該当項目] 1(2)栽培資源の評価・管理手法の高度化

[背景・ねらい]
アミメノコギリガザミをはじめとする甲殻類は脱皮成長するため体外に付着させるタイプの標識では長期間の追跡調査が困難である。また、アミメノコギリガザミ稚仔の生息するマングローブ水域は気根が入り組んだ場所や泥質干潟のように足場の悪い場所が多く、生息域調査を行う上で障害となっている。これらを解決するためには遺伝子分析手法等を利用した簡便な標識技術の開発と放流後に人工種苗を効果的に回収するための漁具の開発が必要である。そこで、同親由来の個体を迅速に判別する遺伝子分析手法の開発を行うとともに、稚仔採集用の籠漁具に適した餌料を明らかにするために各種生物餌料による選択性試験を行った。

[成果の内容・特徴]

  1. 人工種苗を識別するための遺伝子分析手法は、塩基配列の相違を判定できるDGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)(図1)によって行った。2種類のDNA断片を混合すると配列の違いに応じてヘテロ接合断片が生ずるが、同親由来の個体(兄弟)間では塩基配列の相同性が高く、この断片が現れないと予想される。そこでmtDNAのD-loop領域を含む約1500塩基対を増幅し、同親由来の個体のものを人工種苗と天然稚仔のものと混合、泳動した。天然稚仔では参照試料DNAとのヘテロ接合断片が検出されたが人工種苗ではこの断片は全くみられず、簡便に判別できることが示された(図2)。
  2. 餌料選択性試験は6種類の餌料抽出液又は同量の水を含む寒天塊を製作して小型及び大型稚仔へ与え、投与前後の湿重量の差を求めて各種餌料で比較した(図3図4)。その結果、魚類餌料が最も多く摂餌されることと、大型稚仔は餌料抽出液を含まない寒天塊も摂餌するなど成長に伴い選択性が弱まることが明らかとなった(図3)。

[成果の活用面・留意点]

遺伝子分析による放流種苗の簡易判別手法を実用化させることで、放流調査の高度化が期待できる。また漁獲対象となる大型個体の採集に用いられている魚類餌料では稚仔の採集はこれまで困難であったが、本研究の結果は稚仔も魚類抽出液を含む餌料を選択することを示しており、稚仔を効果的に採集できる籠用餌料の製作が可能になると考えられる。
[具体的データ]
図1 DGGE分析の模式図
 塩基配列の異なる2種類のDNA相補鎖からなるヘテロ二重鎖は配列中のミスマッチ部分が泳動中に部分変性し立体構造が変化するため、ホモ二重鎖と比較して遅く泳動される。
図2 天然稚仔と人工種苗のDGGE分析例
 左側5個は天然稚仔、右側5個体は人工種苗由来のDNAを人工種苗(別個体)のものと混合、泳動した。人工種苗の部分にはヘテロ二重鎖が現れていない。
図3 餌料の種類ごとの寒天摂餌量 N=9、縦棒は標準誤差
図4 試験後の寒天の形状
 上(サンマ)は1/3程度食べられているが、下(イソハマグリ)は全く摂餌されていない。



 
[その他]
研究課題名:マングローブ域におけるノコギリガザミ類放流調査手法の開発
予算区分:一般研究
研究期間:平成13〜17年度
研究担当者:玉城泉也・林原毅・清水弘文
発表論文等:DGGE分析によるアミメノコギリガザミ放流種苗の判別の可能性について
      (第6回日本アクアゲノム研究会講演要旨集、印刷中)
      アミメノコギリガザミ人工種苗の餌料選択性試験
      (日本甲殻類学会第40回大会講演要旨集、P.38)
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