有明海の海底で何がおきているか?
岡村和麿*・田中勝久**・横内克巳*・木元克則*・清本容子*
(*西海区水産研究所東シナ海海洋環境部・**中央水産研究所)
[成果の概要]
夏季の有明海において海底の表層堆積物の化学成分を調べたところ,有明海湾奥北西部の干潟域および諫早湾北部では陸地から流出した有機物の堆積がみられた。また,海底堆積物は強い還元状態にあることが分かった。これらのことから生物の生息環境の悪化が進行しているとみられる。
[背景・ねらい]
有明海では,平成12年度ノリ漁期にこれまでにない大規模なノリの色落ちが発生し,大きな社会問題となった。併せてアサリやタイラギのへい死などが近年発生しており,漁業をとりまく環境が大きく変化していると推察される。これまでに,有明海では流動の減少や潮位の変化,透明度の上昇などの物理的環境の変化が明らかにされる一方,ノリの不作や二枚貝類の斃死の要因の一つとして貧酸素水塊の発生が指摘されてきた。そこで,この貧酸素水塊の発生機構を解明するために,その発生と深い関わりがあると考えられる海水中の懸濁物や海底の堆積物の特性の把握を試みた。
[成果の内容]
- 平成14年7月7〜8日に独立行政法人水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所所属の調査船「しらふじ丸」を用いて,有明海湾奥・湾央部及び諫早湾において表層堆積物を採集し(図1,2),海底から1cmの堆積物に含まれる有機炭素および同元素の安定同位体比,色素量,酸化還元電位を測定した。
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有明海湾奥北西部から諫早湾にかけての堆積物は泥質であり,乾泥に含まれる有機炭素量は16mgC/g以上を示した(図3)。
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湾奥北西部の干潟域及び諫早湾において,有機炭素量は19〜22mgC/g以上に達し(図3),その中で植物プランクトン色素量(クロロフィルa+フェオ色素)が多い傾向にあった(図4)。特に諫早湾ではクロロフィルaの分解産物であるフェオ色素の割合が多いことから,分解しつつある植物プランクトンを多く含むことが推察され,夏季成層時にこれらが分解して酸素を消費することにより,貧酸素水塊を発生する可能性が示唆された。
- 湾奥北西部の干潟域及び諫早湾において,最も有機炭素量が高い測点では,有機炭素安定同位体比が低い傾向にあったことから,陸起源粒子の影響が示唆された(図5)。さらに同測点の堆積物は強い還元状態にあり(図6),有機物を多く含む陸起源粒子が海底の環境を悪化させている可能性が示唆された。
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諫早湾(主に北部域)にみられた陸起源粒子の蓄積は,周囲の懸濁物の化学特性や流れの環境から,諫早干拓調整池から排出された粒子によるものと推察された。
- 今後とも有明海の環境を監視するために,海底の堆積物の状況をモニターする必要がある。
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