溶存酸素濃度の低下に伴うタイラギの行動の変化

鈴木健吾*1・輿石裕一*1・圦本達也*2・渡邉康憲*2
*1海区水産業研究部資源培養研究室・*2海区水産業研究部海区産業研究室)

[成果の概要]
  タイラギの行動生態を知る指標として殻の開閉運動に着目し、これを連続的に観測するシステムを構築した。このシステムにより、飼育水槽において殻の開閉運動の連続観測を行うと同時に、ビデオカメラによりタイラギの行動を収録した。殻の開閉運動の記録とビデオ画像を解析した結果、殻を閉じる運動(閉殻運動)は生起間隔により明確に二分され、それぞれが潜砂行動と吐き出し行動に対応していることがわかった。さらに、貧酸素環境下では、潜砂行動が見られなくなり吐き出し行動が増えることがわかった。貧酸素環境が続くとタイラギが砂からはい出してくる行動がビデオに記録され、このとき吐き出し行動とよく似た閉殻運動が数分間隔で連続して記録された。砂からはい出したタイラギはしばらく閉殻運動を繰り返したが、時間の経過とともに閉殻運動の頻度が少なくなり死に至った。以上の結果から、タイラギの殻の開閉運動を連続観測することにより、タイラギが貧酸素環境に反応して行動を変化させる様子を記録することができた。

[背景・ねらい]
  タイラギは有明海の重要な水産資源であるが、近年資源量が減少しており、また“立ち枯れ”と呼ばれる大量斃死を起こすことが問題となっている。タイラギの大量斃死については海洋環境の変化が関連していることが予想されるが、漁場におけるタイラギの死亡時刻が明確で無いため斃死と海洋環境との対応は十分明らかになっているとは言えない。そこで、本研究では連続記録が可能なタイラギの行動指標を捉え、その観測によってタイラギの行動を把握し生死の判定を行うことをねらいとした。

[成果の内容]
  1. ストレインゲージおよびホール素子を用いてタイラギの殻の開閉運動を検出する2種類のセンサーを試作した。(図1
  2. タイラギの殻の開閉運動を連続記録するシステムを構築し、飼育水槽内のタイラギの殻の開閉運動を記録した。同時にビデオカメラでタイラギの行動を記録した。これらの記録を解析した結果から、殻を閉じる運動(閉殻運動)の生起間隔によりタイラギの行動を潜砂行動と吐き出し行動に分類した。(図2
  3. 飼育水槽を窒素ガスで曝気することにより貧酸素環境とすると、潜砂行動を示す連続した閉殻運動が見られなくなり、吐き出し行動と同様の一回だけ閉殻運動を行う行動が増加した。このときタイラギが砂からはい出してくることが明らかとなった。(図3

[成果の利活用・普及、問題点等]
  野外で本試験と同様の観測を行うことができれば、タイラギの死亡時刻をより高い精度で把握できる可能性が示された。また、タイラギの閉殻運動記録を漁場の環境を評価するための生物行動指標として利用できる可能性があり、行動に影響する他の環境要因について調べる必要がある。


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