広域連続観測で捉えた有明海の貧酸素水塊の動態

木元克則1)・田中勝久2)・中山哲嚴3)・輿石裕一4)
・渡辺康憲4)・西内 耕1)・藤井明彦5)・山本憲一5)
1)西海区水産研究所東シナ海海洋環境部・2)中央水産研究所海洋生産部・
3)水産工学研究所水産土木工学部・4)西海区水産研究所海区水産業研究部・5)長崎県総合水産試験場)

[成果の概要]
有明海湾奥部に自動観測装置を設置して連続観測を行い、貧酸素水塊発生場所の中心が有明海湾奥部の干潟縁辺域と諫早湾内にあることを発見した。夏季の小潮時にこれらの水域で貧酸素水塊が急速に発達し、潮汐により移動・拡散しながら沖側へ輸送されるものと推察された。

[背景・ねらい]
有明海湾奥部の夏季の貧酸素水塊の発生要因については、潮流の減少、底質の悪化、気象条件等が挙げられている。しかし、貧酸素水塊の発生の中心海域が特定されておらず、その発生・消滅過程の詳細は不明のままになっていた。これらを明らかにすることを目的として、農林水産技術会議行政対応特別研究「有明海の海洋環境の変化が生物生産に及ぼす影響の解明」等において、関係試験研究機関が共同で有明海湾奥部の計15定点で海底直上層の溶存酸素濃度等の変動を自動観測機器により計測した(図1)。

[成果の内容]

  1. 有明海湾奥部では、夏期の潮汐が弱まり成層が発達する小潮時に底層の貧酸素化が進んだ。その一方、台風や強風の連吹による気象擾乱により貧酸素化が解消される変動が見られた(図2)。
  2. 湾奥北西部の塩田川河口地先の干潟縁辺部のT1(水深1m)では8月下旬の小潮時に溶存酸素が急激に低下した。これより沖のP6(水深10m)では約3日遅れて溶存酸素が低下した。P6より沖側のP1(水深20m)では、さらに約2日遅れて溶存酸素が低下した(図3)。
  3. 有明海湾奥部全域の底層の連続観測結果をもとに、有明海湾奥部及び諫早湾の底層の溶存酸素の毎時の水平分布図を作成し、貧酸素水が小潮時に有明海湾奥部の干潟縁辺域及び諫早湾内で別々に発生・分布し、潮汐により移動することを明らかにした(図4)。

図1.有明海湾奥部環境の連続観測地点
図2.湾奥P6(水深10m)の底層の溶存酸素等の変動(気象データは気象庁による)
図3.有明海湾奥部底層の溶存酸素の変動
図4.有明海湾奥部底層の溶存酸素分布(2003年8月23日)

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