有明海におけるタイラギの大量死の病理学的解析


前野 幸男・圦本 達也・渡邉 康憲
(海区水産業研究部有明海・八代海漁場環境研究センター)

[成果の概要]
健常なタイラギの外套膜、閉殻筋、鰓および生殖腺等の主要臓器の組織学的な特徴および血球の形態学的特徴を明らかにした。大量死等の異常タイラギの腎臓および外套膜において組織病変が認められた。特に腎臓における病変は、上皮細胞の損傷が顕著かつ特徴的であり、タイラギの衰弱および軟体部の萎縮と関連する可能性が示唆された。また、タイラギ大量死と原虫感染症との関連は低いことが明らかとなった。

[背景・ねらい]
近年有明海の重要漁獲種であるタイラギの大量死が頻発しその原因究明が切望されている。大量死等の異常貝を迅速かつ正確に識別するために、タイラギの生理状態を把握することは重要である。しかしながら、タイラギの生理状態をあらわす指標に関する知見は乏しい。そこで本研究では、まず健常なタイラギの組織学的特徴および血リンパの形態学的特徴を把握し、次に大量死する異常タイラギについて病理学的な解析を行い、その死亡と関連する要因を明らかにすることを目的とした。

[成果の内容]

  1. 健常なタイラギの外套膜、閉殻筋、腎臓、鰓、消化盲嚢、心臓および生殖腺の組織学的特徴および血球の形態的特徴を明らかにした。
  2. 大量死等の異常タイラギの各組織を健常貝のそれと比較検討したところ、外套膜および腎臓において明瞭な差違が認められた。正常な外套膜では結合組織は透明感があり、疎線維性でヘマトキシリンで淡染し線維芽細胞が散在している。外套神経環付近にみられる外套血管は、内皮細胞でなめらかに縁取られ管腔構造も明瞭である(図1)。異常貝の外套膜はエオシン好染の線維成分の多い結合組織、あるいは浸潤してきたと考えられる血球細胞が観察された(図1)。
  3. 正常な腎臓では大型の上皮細胞が緻密に配列し、細胞輪郭および細胞核も明瞭に観察されたが(図2)、異常貝の腎臓では上皮細胞の空胞変性、壊死、崩壊が観察された(図2)。
  4. 異常貝の血球塗沫像において、健常貝のそれと比して顆粒球の減少、細胞の萎縮等の差違が観察された(図3)。
  5. PCR法および組織学的検査によりタイラギ大量死とハプロスポリディウム症およびパーキンサス症などの原虫感染症との関連が低いことが明らかとなった。
図1.外套膜血管内皮細胞の組織病変(左:健常貝、右:異常貝)
図2.腎臓上皮の組織病変 (左:健常貝、右:異常貝)
図3.血球細胞における病変 (左:健常貝、右:異常貝)

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