石垣島周辺沿岸域における主要海草類の地上部長の季節的変化

林原 毅1・清水弘文1,2・佐野元彦1,3・玉城泉也1・皆川 恵1,4
(1:西海区水産研究所石垣支所資源増殖研究室、2:現、中央水産研究所、3: 現、養殖研究所、
4: 現、水産総合研究センター本部)

[成果の概要]
石垣島周辺で主要な海草類の地上部の長さの季節的変化などを調査した。海草の種類によっては、地上部の長さが季節的に4倍も変化するものがあり、調査回数が少ない場合には、その場所の海草群落の構成や現存量等の評価が偏ったものになる可能性が示唆された。

[背景・ねらい]
熱帯・亜熱帯域の海草藻場は、多様な魚介類の産卵・成長の場として、水産資源の保護育成に重要な役割を果たしている。近年、沿岸域の埋め立てや環境悪化により海草藻場の衰退が指摘されているが、従来の航空写真の判読に基づく調査では、その実態が十分に把握されてこなかった。亜熱帯域の海草藻場は多種混成が特徴で、種構成や季節性にも注意する必要があると考えられたことから、水中走行ビデオシステムを使った新たな海草藻場評価手法開発の一環として、潜水による予備的調査を行った。

[成果の内容]

  1. 石垣島周辺の7海域で海草類の分布状況を調査し、名蔵湾と伊土名地先の定点では、25×25cm のコドラートによる坪刈り(n=3)を年4回行うとともに、優占種の地上部の長さ(上位30株の平均)をほぼ毎月、1年間にわたり測定した。
  2. 名蔵湾の定点ではリュウキュウスガモ、リュウキュウアマモ、ベニアマモの3種が優占し、それらの現存量や地上部長には明瞭な季節変化は見られなかった(図1-A)。
  3. 伊土名地先でも、リュウキュウスガモ、リュウキュウアマモ、ベニアマモの3種については、地上部長の明瞭な季節変化は見られなかったが(図1-B)、ボウバアマモでは8月に最大値219mm、3月に最小値100mmとなり2.2倍の変化が記録され(図1-C)、ウミショウブでは9月に1056mm、2〜3月には260mmと4倍もの変化が観察された(図1-D)。
  4. 伊土名地先は、海草類の出現種数が最も多い海域であるが、その景観は季節的に大きく変化した(図2)。これは、季節変化が著しいウミショウブとボウバアマモの存在によるもので、調査回数が少ない場合には、その場所の海草群落の構成や現存量等の評価が偏ったものになる可能性を示している。また、モニタリング調査で経年変化を把握しようとする場合にも、調査時期の異なるデータを比較することは基本的に避けるべきである。このように、海草藻場の評価においては、調査時期の選定に十分な考慮を払う必要があることが明らかになった。

図1:石垣島周辺における主要な海草類の地上部長の季節的変化。
A;名蔵湾定点のリュウキュウスガモ、リュウキュウアマモ、ベニアマモ、B;伊土名地先定点のリュウキュウスガモ、リュウキュウアマモ、ベニアマモ、C;伊土名地先定点のボウバアマモ、D;伊土名地先定点のウミショウブ。

図2:伊土名地先定点付近の海中景観.左:7月、右:2月。

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