計量魚群探知機を用いて浮魚類の現存量指標値を推定する


[要約]
九州西から対馬海峡に至る海域において、浮魚類(あじ・さば・いわし類)の現存量指標値を計量魚群探知機を用いて推定した。魚種の確認には、中層トロールを用い、最も多く漁獲されるのはマアジとカタクチイワシであった。推定された魚種別の現存量指標値は、資源評価に用いられている。
西海区水産研究所・東シナ海漁業資源部・資源評価研究室
[連絡先]  095-860-1635
[推進会議(専門特別部会)]  西海ブロック
[専門]  資源評価
[対象]  浮魚類
[分類]  行政
[水産研究技術開発戦略該当項目]  1(1)水産資源の評価・管理手法の高度化

[背景・ねらい]
東シナ海や対馬海峡で操業する大中型まき網などは、近年その操業隻数を減らしている。そのため、漁獲情報を用いた資源評価のみでは、減船などの影響が懸念されるため、調査船などを用いた調査によって、現存量(ある時のある海域での資源量)を推定することが求められている。計量魚群探知機は浮魚類の現存量を推定するために、日本周辺で多く使われてきたが、魚種の多い東シナ海では運用に困難があった。そのため、中層トロールと計量魚群探知機の結果を併用することで、魚種別の現存量指標値を推定することを試みた。

[成果の内容・特徴]

  1. 調査は1997年〜2004年まで実施されている。浮魚類の日周行動の観察結果から、昼間のいわし類とあじ・さば類などの魚群の形状(遊泳水深・形など)が異なることから、1)いわし類、2)あじ・さば類、3)マイクロネクトンの三つのグループに、計量魚探により面積後方散乱強度を抽出した。次いで、中層トロールの魚種別の重量割合を、先に抽出したグループ毎の面積後方散乱強度に乗じることで、魚種毎の現存量指標値を求めた。
  2. いわし類の現存量指標値と、この海域で漁獲された量とには正の相関が認められた。マアジの現存量指標値の経年変化は、その他の調査(たとえば稚魚調査)と同じ傾向を示しており、加入量の変化は推定できていると考えられた。

[成果の活用面・留意点]

  1. 漁業対象種である、いわし類、あじ・さば類について資源評価の一つの結果として用いられている。
  2. この調査は夏季に行われており、いわし類とあじ類については漁況予測の資料として活用されている。
  3. 近年、この調査で魚探とトロール以外にも稚魚やプランクトンを採集しており、今後これらのデータが蓄積・解析されれば浮魚類の加入を推定するために重要な調査となる。
  4. こうした調査は、迅速に解析され、適切に広報されることが望ましい。
  5. 日本周辺では、こうした継続的な資源調査が少なく、またあったとしても適切に広報されていない。このような調査は長期間に渡って継続・広報されるべきである。

[具体的データ]
図1 計量魚群探知機で推定されたいわし類とあじ・さば類の現存量指標値の推移
説明:左)カタクチイワシは1998年〜2001年までと2004年に高めで推移し、ウルメイワシは2001年〜2003年に高めで推移した。右)マアジは2001年に高いと推定された。その他の各種調査でも2001年には同様の傾向であった。さば類は1998年に最も高いが、マアジと比較してその現存量は著しく低いと推定された。
図2 計量魚群探知機で得られた現存量指標値とVPA法で得られた資源量の比較
説明:左)カタクチイワシや、右)ウルメイワシでは一部の年を除き、両者の推定結果は相関があった。赤線が計量魚群探知機による現存量指標値、青線がVPA法による資源量推定値を示す。
図3 計量魚群探知機で推定されたマイクロネクトンの現存量指標値の推移
説明:マイクロネクトン(はだかいわし類・キュウリエソ)は高い資源量であると言われているが、その程度は推定されてない。この調査では250m深までのデータしか用いておらず、マイクロネクトンの資源量を推定するには過小と思われるものの、マイクロネクトンの現存量も変動していることが明らかとなった。

[その他]
研究課題名:重要資源の現存量推定値の精度評価とマアジの個体群動態モデルの作成
研究期間 :平成13〜17年度
予算区分 :一般研究(交付金)
研究担当者:大下誠二
発表論文等:Ohshimo, S. (2004) Spatial distribution and biomass of pelagic fish in the East China Sea in summer, based on acoustic surveys from 1997 to 2001. Fish. Sci., 70, 347-353.
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