生化学的指標を用いた二枚貝の生理状態の評価


[要約]
タイラギとサルボウを用いて無給餌条件下および性成熟過程において、組織中のグリコーゲン量およびフェオ色素量の変動を調査し、これらが両種の生理状態を反映する指標として有用であることを明らかにした。
西海区水産研究所 海区水産業研究部 有明海・八代海漁場環境研究科
[連絡先] 095-860-1631
[推進会議(専門特別部会)] 西海ブロック
[専門] 魚介藻生理
[対象] 他の二枚貝
[分類] 研究
[水産研究技術開発戦略該当項目] 2-(3)重要沿岸生物資源の生物特性の解明

[背景・ねらい]
これまで、タイラギやサルボウにおいては生理状態を評価する指標についての調査研究が行われておらず、成長や成熟等の生理活動をモニタリングするに際しての障害となっていた。そこで、両種の体内のグリコーゲン量および中腸腺フェオ色素量が生理状態を示す指標として有効か否かの検討を行った。

[成果の内容・特徴]

  1. タイラギおよびサルボウそれぞれについて、給餌試験と無給餌試験を並行して行い、タイラギの閉殻筋およびサルボウの斧足におけるグリコーゲン量および両種の中腸腺フェオ色素量を経時的に測定した。
  2. 無給餌試験では、タイラギはグリコーゲン量およびフェオ色素量のいずれも顕著な減少が見られた(図1)。一方、サルボウはフェオ色素量の減少が見られたが、グリコーゲン量には明瞭な減少が見られなかった(図2)。
  3. 有明海の漁場におけるタイラギのグリコーゲン量の季節的な変動を調査したところ、i)タイラギにおけるグリコーゲン量は雄雌ともに生殖腺の発達が不十分な2月から増加し、4月に最高値を示すこと(図3)、ii)その後、放卵・放精期に入ったと思われる5月以降に著しく減少することが明らかとなり(図4)、タイラギのグリコーゲン量は、生殖腺の発達と密接な関係を有し、性成熟の有用な生理指標となることが示された。

[成果の活用面・留意点]

  1. 今回、タイラギとサルボウを用いてグリコーゲン量およびフェオ色素量が生化学的生理指標として有効であることを明らかにしたが、これらは、カキやアコヤガイなどでも指標としての有効性が明らかにされており、二枚貝の生理状態を評価する指標としての活用が期待できる。

[具体的データ]
図1.絶食飼育したタイラギの閉殻筋グリコーゲン量と中腸腺フェオ色素量の推移
A:グリコーゲン量の推移、B:フェオ色素量の推移 -●-:給餌区、-○-:無給餌区、平均値±標準偏差
図2.絶食飼育したサルボウの斧足部グリコーゲン量と中腸腺フェオ色素量の推移
A:グリコーゲン量の推移、B:フェオ色素量の推移 -●-:給餌区、-○-:無給餌区、平均値±標準偏差
図3.有明海に生息するタイラギの閉殻筋グリコーゲン量の周年変化 平均値±標準偏差
図4.2月から8月におけるタイラギ生殖腺組織の変化
A〜D:精巣、E〜H:卵巣、AE:2月、BF:4月、CG:6月、DH:8月

[その他]
 研究課題名:二枚貝主要種の生理状態と環境要因との係わりの把握
  研究期間 :平成12年〜17年
  予算区分 :一般研究
  研究担当者:圦本達也・前野幸男・渡邉康憲(瀬戸内水研)
  発表論文等:

1)圦本達也・渡辺康憲(2001)グリコーゲンを指標としたタイラギ資源の生理状態,西海水研研究成果集,4,14-15.
2)圦本達也・渡辺康憲(2002)有明海産タイラギのグリコーゲン蓄積量の推移,西海水研研究成果集,5,12-13.
3)圦本達也(2003)有明海に生息するタイラギのへい死原因を求めて,西海区水産研究所ニュース, 107,19-21.
4)Tatsuya Yurimoto, Hiroshi Nasu, Norihisa Tobase, Shigeaki Matsui, Naoki Yoshioka and Yasunori Watanabe(2003)Relationship between environmental food and glycogen contents in pen shells, 
 32nd UJNR Aquaculture Panel Meeting Proceeding (California Nov.16-22), (印刷中)
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