東シナ海陸棚縁辺部での冬季における暖水の北上について

森永 健司・中川 倫寿・種子田 雄
(東シナ海海洋環境部海洋動態研究室)

[成果の概要]
 人工衛星NOAAから得られた熱赤外画像を用いて、黒潮北縁部に発生する前線波動を検出し、前線波動から分岐北上する暖水の経路を分類した。その結果、黒潮北縁部での前線波動の砕波による対馬暖流源流への暖水の供給経路には大きく分けて二通りあることが分かり、対馬暖流への分岐流量を効率よく計測するための重要な情報を得ることができた。今後、分岐流量の計測精度を高めることによって、東シナ海に産卵場を持つマアジの卵・仔稚魚が日本海へ配分される割合を推定することが可能となる。

[背景・ねらい]
 マアジの主な産卵場は、冬季、東シナ海の陸棚縁辺部に形成されるものと考えられている。これらの卵・稚仔魚は黒潮の流れにより産卵場から輸送され、奄美大島北西部で分岐した後に、対馬暖流の源流となる流れにより日本海へ配分されるものと推察される。しかし黒潮から対馬暖流へと分岐する流動についての知見は乏しく、卵・仔稚魚の配分を議論するには分岐域での流動の概要を把握する必要があった。そこで流動パターンの類型化を目的として、人工衛星NOAA熱赤外画像を用いて画像解析を行った。

[成果の内容]
 1994年以降に取得された人工衛星熱赤外画像のうち、産卵期である1〜4月に得られた画像に黒潮北縁部を強調する処理を施して、前線波動の発生箇所および形状について判読した。その結果、概ね図1上段に示したような回転方向の異なる渦が形成されるパターンに類型化できた。図1下段に示すように、これらの渦の西側を対馬暖流の源流が北上するものと考えられるが、時計周りの循環を示す高気圧性渦の場合には、その北上経路は東偏し(図1下段左)、逆に反時計周りの循環を示す低気圧性渦の場合には西偏するものと推察された(図1下段右)。一方、渦の西側を北上した暖水から九州西岸沿岸方向へと東方に分岐する状況が認められたが(図1下段左)、現在のところこの暖水の挙動ついての知見は皆無であり、今後の重要な検討課題である。

[具多的データ]
図1 上段:人工衛星NOAA熱赤外画像をもとに黒潮北縁部を画像処理により強調した
左:1996年4月11日右:1994年4月26日、赤色は雲を示す
下段:上段直上図の海面水温分布から類推した流動の模式図
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