春期の東シナ海におけるカタクチイワシ仔魚の分布および成長


[要約]
春期の東シナ海大陸棚斜面域のほぼ全域においてカタクチイワシ仔魚が濃密に分布していることを明らかにした。これら仔魚の平均日間成長量は0.75mm/day と他の海域に分布するカタクチイワシ仔魚と比 較して非常に良好な値を示した。その中でも九州西方海域で採集された個体が最も成長が良好であった。春期の東シナ海はカタクチイワシの初期成育場として非常に良好な海域であることが推定された。
西海区水産研究所・東シナ海漁業資源部・資源生態研究室
[連絡先]  095-860-1636
[推進会議(専門特別部会)]  西海ブロック
[専門]  資源生態
[対象]  いわし
[分類]  研究
[水産研究技術開発戦略該当項目]  1(1)水産資源の変動機構の解明と予測手法の開発

[背景・ねらい]
春期の東シナ海ではマアジの他多くの浮魚類が初期生活期を送っている。近年のニューストンネット調査により、これまで東シナ海では詳細な生態の情報が存在しなかったカタクチイワシについて、多くの観測点に おいて仔魚が大量に採集された。そこで本研究では東シナ海におけるカタクチイワシ初期生活史研究の一環として、春期のカタクチイワシ仔魚の分布生態および初期成長様式を明らかにすることを目的として研究を 行った。

[成果の内容・特徴]

  1. 春期の東シナ海におけるニューストンネットによる調査により、大量のカタクチイワシ仔魚が採集された。この結果から春期の東シナ海の広い海域においてカタクチイワシの産卵が行われていることが推定できた(図1)。
  2. 耳石日周輪の解析により、春期の東シナ海に分布するカタクチイワシの平均日間成長量は0.75mm/dayと本州周辺の他海域に分布する個体よりも大きな値を示した(図2)。
  3. Biological intercept method により逆算した成長を海域間で比較すると九州西方で採集された個体が比較的良好な成長を示した(図3)。

[成果の活用面・留意点]

  1. これまで東シナ海での情報がほとんど存在しなかったカタクチイワシの初期生活史について、分布および初期成長を明らかにした。
  2. 日本の沿岸域に分布する個体の生態だけではなく、極東海域に広く分布するカタクチイワシの生態の把握の一助となる。

[具体的データ]
図1.春期のカタクチイワシ仔魚の分布
  2004年4月の東シナ海においてニューストンネットにより採集されたカタクチイワシ仔魚の水平分布。水温約17〜24℃の海域に広く出現していた。
図2.カタクチイワシの初期成長
  2003年4月の東シナ海において採集されたカタクチイワシ仔魚の初期成長。Biological intercept methodにより逆算した平均日間成長量は約0.75mm/dayで他海域に比較して良好な成長を示していた。
図3.測点別カタクチイワシの初期成長
 図2で示した初期成長を観測点別に分解した。最も成長が良好であった測点では日間成長量が約0.87mm/dayであった。これに対し最も低い測点では0.62mm/dayであった。
図4.測点別平均日間成長量の比較による海域区分
 測点別の日間成長量を比較すると大きく4海域に区分できた(日間成長量:赤>黄>青>白)。九州西方で採集されたカタクチイワシ仔魚の成長が比較的良好であった。

[その他]
研究課題名:九州西岸におけるカタクチイワシ春生まれ群の加入機構
研究期間 :H13〜17
予算区分 :一般研究費
研究担当者:塚本洋一・佐々千由紀・(小西芳信:現SEAFDEC)
発表論文等:小西芳信・佐々千由紀(2002).東シナ海の昼間表層におけるカタクチイワシシラスの多量採集.2002年水産海洋学会創立40周年記念大会講演要旨集.p.110.

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