サンゴHSP70遺伝子の全長クローニングと発現解析


[要約]
ディファレンシャル・ディスプレイ法により赤土に応答するサンゴの遺伝子を探索したところ、ストレスタンパクHSP70と相同性の高い遺伝子断片が得られた。ノーザン解析の結果、この遺伝子の発現量は赤土添加(10〜200ppm、2時間暴露)により約2倍となることが確認された。
西海区水産研究所・石垣支所・生態系保全研究室
[連絡先]  0980-88-2571
[推進会議(専門特別部会)]  西海ブロック
[専門]  魚介藻生理
[対象]  さんご
[分類]  研究
[水産研究技術開発戦略該当項目]  2(3)重要沿岸生物資源の生物特性の解明

[背景・ねらい]
サンゴの保全は重要な課題であるが、これまでサンゴの生理状態を評価する適当な手法が無かった。そこで適当な手法を確立するために、サンゴの遺伝子発現解析を進めている。それは環境変化(赤土の負荷など)に応答する遺伝子が見つかれば、生理状態の指標として利用できるからである。
 これまでに、ディファレンシャル・ディスプレイ法(DD)を用いた解析により、懸濁赤土に応答するとみられる遺伝子が多数得られている。しかしDDには、遺伝子の一部分しか得られない、偽陽性が含まれる等の問題があった。そこで、上記の遺伝子のうちHSP70と相同性の高かった1つ(HSP70-Iと命名)について、全長にわたる塩基配列決定(全長クローニング)を行った。さらに、ノーザン解析により陽性/偽陽性の判定を行った。
[成果の内容・特徴]
  1. HSP70-IのcDNAは全長約2500塩基対で、669アミノ酸残基から成るタンパクをコードしており(図1)、そのアミノ酸配列はアメフラシBiP(HSP70の一種)に最も良く似ていた(78.2%の相同性)。
  2. ハナヤサイサンゴを赤土(国頭マージ)0、10、50、200ppm(いずれも水温21℃)、及び高水温(31℃)に2時間暴露後、RNAを抽出し、ノーザン解析を行った。HSP70-Iの発現量は赤土暴露により2.0-2.4倍に増加しており、陽性と確認できた。また、高水温暴露時にはその発現量は10倍に達していた。

[成果の活用面・留意点]
HSP70-I以外の赤土応答性遺伝子に関する同様の解析や、他のストレス要因(界面活性剤、農薬など)に応答する遺伝子の探索も進めており、今後は、これらの解析で得られる複数の遺伝子を指標とし、サンゴの生理状態やサンゴ礁環境を評価する手法を確立したい。
[具体的データ]
図1.ハナヤサイサンゴHSP70-Iの全長cDNA
図2.HSP70-Iの発現
 ub52は内部標準遺伝子。コントロールを1として、各処理区の発現量を表した。 1:コントロール、2:赤土10ppm、3:赤土50ppm、4:赤土200ppm、5:高水温。

[その他]
研究課題名:漁場環境がサンゴに与える影響の評価手法の開発
研究期間 :平成13〜17年度
予算区分 :水産庁・川上川下委託事業
研究担当者:橋本和正・澁野拓郎・阿部寧・高田宜武
発表論文等:
1)橋本和正・澁野拓郎・阿部寧・高田宜武(2002)西海水研研究成果集、5、14-15
2)橋本和正・萱野暁明(2003)ハナヤサイサンゴのストレス応答、バイオサイエンスとインダストリー、61、9-10
3)Kazumasa Hashimoto, Takuro Shibuno, Eiko Murayama-Kayano, Hiroshi Tanaka and Toshiaki Kayano (2004) Isolation and characterization of stress-responsive genes from the scleractinian coral Pocillopora damicornis. Coral Reefs 23: 485-491.

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