石垣島吹通川マングローブ域における物質保持機能の解明

下田 徹*1・福岡弘紀*1・岡慎一郎*2
*1石垣支所海洋環境研究室・*2瀬戸内海区水産研究所)
[成果の概要]
マングローブ域において降雨時、懸濁物質(赤土)、窒素、リンが保持され、晴天時にこれらの物質が放出されていることを実証した。

[背景・ねらい]
マングローブ域は水産生物の生育場摂餌場として重要であり、多様性に富んだ生態系を有している。マングローブ根部の持つ複雑な形状およびベントスが作る起伏はマングローブ域の流動を弱めさせ物質を蓄積しやすいと考えられている。マングローブ域および亜熱帯河口域からの物質供給に関する研究は数多く見受けられるが、マングローブ域における物質保持に関する研究は、降雨時の調査が必要であるため、通常のあらかじめ日時を決めて行う観測で明らかにすることは難しい。本研究では、石垣支所から約4kmと近い吹通川に4つの調査点を設定し(図1)、降雨時及び晴天時調査によって、マングローブ域における物質保持機能を明らかにすることを目的とした。

[成果の内容]
晴天時の調査(7月15日)では、一潮汐あたり懸濁物質は、884kg放出された。溶存無機態窒素およびリンは、マングローブ域内に蓄積されたが、溶存有機態および懸濁態窒素およびリンはマングローブ域から放出され、全窒素で23.8kgN、全リンで0.15kgPが一潮汐間に放出された(表1)。
 降雨時の調査(12月20日)では、小潮であったため、湾口部での流速は晴天時の調査に比べ小さかったが、低潮時においても流出が見られた。上流部から供給される平均の懸濁物質量は、晴天時には1mg/Lに満たないのに対し降雨時には100mg/Lを超えていた。算出されたマングローブ域への懸濁物質供給量は、2094kg、一潮汐間に放出されたSS量は1674kgであり、420kgの懸濁物質がマングローブ域に保持された。降雨時の栄養塩濃度は晴天時と同水準にあったが、懸濁態窒素量は晴天時の約9倍、懸濁態リンでは約16倍の濃度を持つ水がマングローブ域に供給された。供給量から放出量を差し引いたマングローブ域における物質保持量は、窒素で約7.7kgN、リンで約1.2kgPとなった(表2)。

[成果の活用面・留意点]
降雨時、マングローブ域における物質保持能があきらかになったが、さらに降水量と物質保持量の関係、保持された物質を徐々に放出する緩衝作用および窒素リン等を生態系内に取り込むことによる水質浄化作用について研究を進めていく必要がある。

[具体的データ]
図1.吹通川調査点(図中の丸印が調査点)
表1.平成16年7月15日、晴天時におけるマングローブ域上流域および河口域における物質流出入量、物質保持量
表2.平成16年12月20日、降雨時におけるマングローブ域上流域および河口域における物質流出入量、物質保持量
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