東シナ海・黄海におけるスルメイカの分布と回遊− 冬の産卵親イカ量を推定する −


[要約]
1986年〜1997年に東シナ海・黄海のほぼ全域で実施したトロール調査結果から、スルメイカの季節ごとの分布や資源量を把握した。冬(1〜2月)の資源量の経年変化は、当該年の太平洋側スルメイカ漁獲量とほぼパラレルの関係を示した。東シナ海・黄海における産卵時期・場所及び冬期産卵群の季節的回遊パターンを推察した。 
西海区水産研究所・資源管理部・生態系研究室、底魚資源管理研究室

[連絡先]  095−822−8158
[推進会議]  西海ブロック 
[専門]  資源生態
[対象]  いか類
[分類]  研究

[背景・ねらい]
  スルメイカは我が国周辺に広く分布し、主に、秋に生まれて日本海を回遊する群れと、冬に生まれて太平洋岸を回遊する群れとが知られている。近年では後者の資源が増大しており、年間30万トン前後の水揚げ量があるが、年変動が大きい。本種の主産卵場は九州から東シナ海にあるだろうと想定されているが、未だに、その卵が天然海域で採集されたことがないなど、謎の部分が多い。一方、本種は1998年からTAC(総漁獲可能量)対象種となったが、その寿命は1年であるため、加入量の多寡がその年の資源量を大きく左右する。そこで、産卵場と目される東シナ海の産卵親イカ量を把握することができれば、本資源を安定供給するための適正な資源管理に資することが期待される。
 
[成果の内容・特徴]
  1. 1986年より1991年にかけて、季節を変えて、東シナ海・黄海のほぼ全域で、トロール調査を実施した。漁獲物は、1曳網ごとに、他の魚類などとともに、スルメイカの尾数と重量を計り、季節ごとの分布や資源量を把握した。さらに生物測定を実施し、1尾ごとの体長や重量、成熟度などを調査した。1992年からは、毎年1〜2月にほぼ同様のトロール調査を実施し、冬季のスルメイカ資源量の経年変化を調べた。
  2. 東シナ海・黄海に分布するスルメイカは、春に東シナ海陸棚中央部を中心に最も資源尾数が大きい。夏になると黄海に北上し、秋になると、東シナ海へ南下を始めるが、自然死亡などにより、資源尾数はだんだんと減り、秋には春の1/5程度の資源尾数に減る。冬には陸棚のより深い部分である縁辺部に分布するが、それらは主に大型の成熟した親イカであった。また、このころ資源は秋よりずっと増大しており、この海域以外から回遊してきて産卵しているものもかなりいると思われた( 図1図2 )。東シナ海における冬の資源量の経年変化は、当該年の太平洋側のスルメイカ漁獲量とほぼパラレルの関係が認められ( 図3 )、既往の知見を含めると、冬季の東シナ海縁辺部から斜面域で産卵されたスルメイカは黄海に回遊するもののほかに、黒潮に運ばれ、太平洋側を回遊するものもあり、1年後にそれぞれまた、産卵場に帰ってくることが推察された。
[成果の活用面・留意点]
本調査結果は、東シナ海・黄海の冬季の産卵親イカ量が太平洋側のスルメイカ来遊量と密接に関係することを示唆しており、本資源の評価・管理・動向予測の高度化に資することが期待される。調査海域が今後日本・中国・韓国の各排他的経済水域を含むため、関係国の連携や協力に基づいた調査の設計・実測が不可欠である。  
[具体的データ]
 図1 東シナ海・黄海におけるスルメイカの分布・回遊
 図2 スルメイカの資源尾数及び重量の季節変化
 図3 冬季の東シナ海におけるスルメイカの推定資源尾数と太平洋側における水揚げ量及び調査船CPUEの経年変化  

[その他]
研究課題名:東シナ海・黄海における底魚類の資源動向の把握
予算区分 :漁業調査
研究期間 :平成8〜12年度
研究担当者:山田陽巳・時村宗春
発表論文等:底びき網調査船結果からみた東シナ海・黄海陸棚上におけるスルメイカの分布と成熟度などの若干の生物学的知見,
        イカ類資源研究会報告(平成8年度),1998
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