東シナ海のウマヅラハギとサラサハギの魚種交替


[要約]
1986年から東シナ海で行っているトロール調査結果などを基に、カワハギ類2種の資源動向を追跡し、トロール調査結果に2種の量的逆転が反映されているかどうかを確認するとともに、分布や食性などの重複の程度を調べ、この逆転現象が魚種交替に相当するかどうかを検討した。
西海区水産研究所・東シナ海漁業資源部・資源評価研、底魚生態研

[連絡先]  095−822−8158
[推進会議] 西海ブロック   
[専門]   資源評価
[対象]   他の底魚
[分類]   研究

[背景・ねらい]
ウマヅラハギは、東シナ海では中国、韓国の最重要魚種の一つである。1990年までは両国で40万トン以上の漁獲があったが、以後急減し、'95年には1万トン以下となり、逆に近縁の小型種サラサハギの漁獲量が増加した。ウマヅラハギの激減は、中韓両国の漁業に深刻な影響を与えただけでなく、本種を対象とした中国漁船の対馬近海での冬季操業の激減と、本種の代替としてのスルメイカ資源に対する日中韓3国の競合の激化を招くなど、間接的に我が国にも大きな影響を及ぼした(図1 )。このため、的確な漁業管理のためにも本資源の動向予測は重要な課題である。
 
[成果の内容・特徴]
  1. 冬季の現存量推定値の経年比較から、ウマヅラハギが経年的に減少し1997年にはサラサハギの1/20程度になる(図2  )とともに、分布域も縮小、漁獲物も小型化し、資源状態が悪化した一方、サラサハギでは特に分布域の北方への経年的拡大が認められ、トロール調査結果にも両種の量的逆転現象が明確に反映されていることが確認された。
  2. 両種の好適分布環境は、水深帯にややずれがあったものの、水温、塩分はそれぞれ14〜19℃、33.8〜34.5とほぼ等しく、また、食性に関しても両種は非常に似かよっていた(  図3   )ことから、両種は東シナ海の水深100m以深の海域では強く競合すると考えられた。したがって両種の量的逆転は偶然ではなく、優占種ウマヅラハギの減少に伴って、形態及び生態が類似するサラサハギが増加し分布域を拡大した魚種交替現象であると考えられた。 今後、魚種交替の機構の解明を図るとともに、調査船調査を継続し、両種の資源動向を事前に予測する研究に発展させたい。なお、本年1、2月の調査で、ウマヅラハギの現存量推定値が増加し、サラサハギが激減したことから、今後再びウマヅラハギが増加する兆候が認められた。
[成果の活用面・留意点]
本調査結果から、これらのカワハギ類2種は競合関係にあることが示唆されたことから、1種の減少は、他種の増加に結びつく可能性が高いことが示された。また、両種の量的変化や分布域の変化がトロール調査に反映されていたことから、本調査が両種資源の評価、管理、動向予測の有効な手段となることが期待される。ただし、調査回数がまだ十分でないので、さらに調査を継続して、魚種交替に関する知見の集積を図る必要がある。 
[具体的データ]
 図1 東シナ海におけるカワハギ類等の漁獲量の推移
 図2 冬季の調査船調査による現存量推定値の経年変化
 図3 ウマヅラハギとサラサハギの食性の比較

[その他]
研究課題名:東シナ海・黄海における底魚類の資源動向の把握 
予算区分 :漁業調査
研究期間 :平成8〜12年
研究担当者:時村宗春・山本圭介・山田梅芳・堀川博史
発表論文等:東シナ海におけるウマヅラハギとサラサハギの魚種交代について、平成10年度日本水産学会春季大会講演要旨集、1998
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