東シナ海における有機ハロゲン化合物の分布


[要約]
東シナ海において人工汚染物質の濃縮捕集を行い、ごく低濃度ながら農薬由来と推定される数種類の有機ハロゲン化合物を検出した。一部の物質については、空間的な濃度分布の偏りや塩分値との比較結果から、陸水が主要な供給源であることが示唆された。
 
西海区水産研究所・東シナ海海洋環境部 生物環境研究室
[連絡先]  095−822−8158
[推進会議] 西海ブロック
[専門]  物質循環・漁場環境
[対象]  
[分類]研究

[背景・ねらい]
海水中の有害化学物質の濃度は一般にきわめて低いため、これまでは沿岸域を除いて実測例はほとんど皆無であった。しかしながら近年、ごく微量の環境汚染物質が内分泌攪乱物質(環境ホルモン)として作用する可能性が報告されるようになってきた。東シナ海においては、近年の周辺諸国の急速な経済発展に伴い、産業廃棄物や農薬等に由来する環境汚染物質の海域への負荷量が増大する可能性が考えられ、 これらの有害化学物質による海洋汚染が今後深刻な問題となることが危惧される。東シナ海の環境保全のためには、まずこれら人工汚染物質の分布実態の把握を行うことが不可欠である。
 
[成果の内容・特徴]
  1. 国立環境研究所で設計された船上用濃縮捕集システムを用い、東シナ海の大陸棚域及び沖縄舟状海盆において有機ハロゲン化合物のサンプリングを行った。また同時に水温・塩分等の関連データを収集し、これらと併せて検討することで海水中における有害化学物質の挙動特性を明らかにすることを試みた( 図1 )。
  2. 表層水試料の分析を行った結果、pg/Lオーダー(1pg=10?12g)ときわめて低濃度ながら、いずれも有機塩素系の農薬であるヘキサクロロシクロヘキサン類(HCH類)及びクロルデン類の各種異性体が検出された( 図2)。
  3. HCH類に関しては,各異性体の濃度の水平分布のパターンが異なっていることから、供給経路及び海水中での挙動が異性体ごとに異なる可能性が示唆された。特にβ-HCHは表層においては中国大陸沿岸水起源の低塩分水張り出しの内部で、下層では底層付近で高濃度となるなど空間的な分布に偏りが顕著であった。これら高濃度水の直接的な起源は陸水及び海底堆積物にあるものと考えられた(図3)。
[成果の活用面・留意点]
今回検出された有機塩素系農薬は、日本、中国の両国においてすでに使用が禁止されているので、過去に環境中に蓄積されたものが再析出してきたかものか、より汚染度の高い他地域から輸送されてきたものが起源と考えられる。 今度は継続的なデータの蓄積及びモニタリング体制の確立が必要であるが、これら低濃度の有害化学物質の海洋生態系への影響については未だ未知数の部分が多く、データの取り扱いには注意が必要である。
 
[具体的データ]
 図1 観測点位置及び表層塩分分布
 図2 表層中のHCH類の濃度
 図3 表層中のHCH類濃度と塩分との関係

[その他] 
研究課題名:東シナ海における有害化学物質の時空間変動機構に関する研究 
予算区分:地球環境研究総合推進費
研究期間:平成8〜11年度 研究担当者:清本容子,岡村和麿,横内克巳
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