東シナ海陸棚域からの粒子輸送〜いつ、どこから

岡村和麿・清本容子

(西海区水産研究所東シナ海海洋環境部)  

〔成果の概要〕
東シナ海陸棚域の懸濁粒子が、いつ、どこから外洋へと輸送されているかの概要がつかめた。今後それらの情報をもとに、陸棚域から外洋への懸濁粒子の正確な輸送量の算出が期待される。
〔背景・ねらい〕
東シナ海は長江・黄河の2大河川の流入により大量の大陸起源の懸濁粒子が供給される。洪水期に河川から高濃度の懸濁粒子が沖合へ流出することは良く知られているが、その多くは河口の沖合域で沈降・堆積する。これら堆積した粒子は潮汐や荒天などにより再懸濁・沈降を繰り返すことにより海底付近に高濃度の懸濁物層(海底高濁度層)を形成する(図1)。この海底高濁度層中の懸濁粒子は水平方向の流れにより沖合へと輸送されることが知られている。東シナ海は広大な陸棚を有することから海底高濁度層が懸濁粒子の外洋への輸送に重要な役割を果たしていると考えられるが、その輸送機構についての研究は殆どなされていない。本研究では、季節毎の濁度層の分布を広域に把握するとともに、水塊構造との関わりを検討することにより懸濁粒子の沖合輸送機構の解明を試みた。
〔成果の内容〕
  1. 濁度層の消長  東シナ海陸棚域において、冬季には盛んな鉛直混合により高濁度は海底付近から表層にまでおよぶ。春季になると海表面が暖められ、成層(2層)構造が発達するにつれて躍層下に海底高濁度層が形成され、夏季に最も懸濁物濃度が高くなる。
  2. 粒子輸送の季節変動とその要因  外洋への粒子輸送は、春季には間欠的になされるが、夏季にはほ殆どなされない。秋季に外洋への輸送が始まり、冬季にその量が最大となる。秋・冬季に吹く強い北西の季節風の作用により、上層で岸向きの流れが、下層では逆向きの沖合いへの流れが生じると考えられる。この下層における沖向きの流れが粒子を外洋へと輸送すると推察された(図2)。
  3. 粒子輸送の地理的特性  陸棚縁辺部において、北緯30度30分付近と北緯29度付近に、粒子が沖合へ輸送される大きな通り道が存在することが推察された。前者はほぼ一年を通して、後者は北西の季節風にリンクした台湾暖流の消長に連動して春季と秋季に、それぞれ粒子輸送にとって重要な海域となる(図3)。
  4. 今後の展望  今後東シナ海における懸濁粒子の輸送量を算出する際には、粒子輸送量の季節変動や地理的特性を考慮する必要がある。  
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