大型褐藻類葉状部消失現象の原因解明

吉村 拓・清本節夫・野田幹雄**・桐山隆哉***・新井章吾****

(*西海区水産研究所海区水産業研究部・**水産大学校・ ***長崎県総合水産試験場・****(株)海藻研究所)

〔成果の概要〕
平成10年の秋から初冬にかけて、長崎県野母崎町地先水域で大規模に発生したクロメなど大型褐藻類の葉状部消失現象は、平成11年の同時期にやや小規模ながら発生した同様の現象に対する調査結果に基づくと、高水温による生理障害が原因ではなく、アイゴやブダイなどの藻食性魚類による食害が直接の原因と考えられた。
〔背景・ねらい〕
平成10年に、長崎県野母崎町地先の海岸線約2kmに沿って、ほとんどのクロメがその葉状部を失うという現象が発生した。平成11年3月の調査では、クロメの再生状況が場所によって異なり、当該水域の西側では再生が全く見られなかった。また、ワカメ、イソモク、ヒジキでも、葉や主枝の先端を著しく消失させている個体が確認された。そこで、これらの原因解明と藻場に及ぶ影響の評価を目的とした緊急調査を、水産大学校と長崎県総合水産試験場との共同研究によって実施した。
〔成果の内容〕
  1. 平成11年7月以降、週1回の調査を継続した結果、クロメの葉状部消失現象は9月9日に初めて確認され、側葉の大半を失ったクロメが直径数mのパッチ状に散在したが、表層・底層水温との関連性は認められなかった(図1)。藻体に残された傷跡の詳細な検討や、水槽内での採食実験、及び当該水域に他所で採取したクロメを移植する採食実験(写真1 ・写真2図2)などによって、この現象の直接的原因は、アイゴ、ブダイを中心とする藻食性魚類による食害であることが判明した。
  2. パッチ状の食害域は、その後サイズが拡大したり、数が増加したものの、平成10年度の様な藻場全体に及ぶ規模には至らず、全クロメのおよそ3〜4割程度が被害を受けるに止まった。この原因として、夏季の異常降雨が藻食性魚類の個体群動態や生態に何らかの影響を及ぼした可能性と、水温の低下時期が昨年度よりも早く、藻食性魚類による採食圧が長期間持続しなかったことが考えられた。
  3. これら魚類の生態に基づけば、大きな群れを形成するアイゴは、大規模かつ突発的な食害をもたらし、小さな群れでなわばりを形成するブダイは、小規模ながら長期持続的な食害をもたらすものと推測された。近隣の磯焼け地帯にクロメを移植した実験でも、やはりこれら2種による食害が確認されたことなどから、藻食性魚類の食害は、規模にもよるものの、藻場の種組成や密度にまで影響を及ぼし、さらには貧海藻や磯焼け状態を持続させる要因にもなり得ることが示唆された。
  4. 藻食性魚類が藻場に重大な影響を与える存在であることが明らかとなったことは意義が大きく、今後は沿岸生態系の保全や藻場造成技術の改善のために、より広域での実態の把握と、不足している藻食性魚類の生態や資源に関する情報の蓄積が必要であろう。
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