大変動する浅海砂浜域におけるヒラメ稚魚の大好物


[要約]
砂浜浅海域はヒラメ等の魚類成育場となっており、アミ類は重要な餌生物である。アミ類の分布密度は9年間で28倍の変動を示し、年による優占種の交替が顕著であった。また、アミ類の動態には魚類の捕食圧が大きな役割を持つと推察された。
西海区水産研究所・海区水産業研究部・資源培養研究室
[連絡先]  095−833−2695
[推進会議] 西海ブロック   
[専門]   資源生態
[対象]   ベントス
[分類]   研究

[背景・ねらい]
砂浜海岸地先の浅海域を春から夏に成育場として利用する魚類にとって、アミ類(小型甲殻類)は重要な餌生物となっている。特にヒラメ稚魚はアミ類に依存する割合が高く、種苗放流では成長に必要な量のアミ類の分布が不可欠である。しかし、アミ類の生態や動態解明は一部の海域を除き進んでいない。このため、資源培養研究室ではヒラメ稚魚調査と平行して実施しているアミ類モニタリング調査によりアミ類の分布実態を明らかにし、種苗放流技術開発や天然魚の密度変動機構解明に役立てようと考えている。

[成果の内容・特徴]

  1. 長崎県島原半島の加津佐町地先の浅海域(10m以浅の海域)において、ソリネットにより採集した標本(1991〜1999年)を用いてアミ類の動態を解析した。アミ類の分布密度は水深により顕著に異なったが、ここでは水深1〜9m帯の平均値を解析の対象とした。  
  2. 採集されたアミ類は30種にのぼったが、数量的な優占種は少数に限られ、上位2種の合計が採集個体数全体の90%以上を占める場合が多かった。ヒラメ稚魚の着底期である4月についてみると、遊泳性のトゲイサザアミ(Neomysis spinosa)やコマセアミ(Anisomysis ijimai)、及び匍匐性のトリウミモアミ(Nipponomysis toriumii)の出現量が多かった。  
  3. アミ類出現量の年変動は大きく、変動幅は9年間で28倍に達した(図1)。また、年による顕著な優占種の交替が認められた。調査海域のアミ類出現量の多寡は、主にトゲイサザアミの出現量に左右され、匍匐性のアミ類より遊泳性のアミ類の年変動が著しかった。  
  4. アミ類出現量の季節変化も顕著で、春先から初夏にかけてピークがみられた。ただし、日本海沿岸各地で見られる単峰型のみならず、秋口にピークを示す年もあった(図2)。  
  5. 出現量の変動や優占種交替の要因として、水温変動、台風等のイベント、魚類による捕食圧等の影響が推測される。捕食圧については、ヒラメ稚魚によるトゲイサザアミの選択的な摂餌が採集標本の胃内容分析及び飼育実験(表1)により確認され、大規模に種苗を放流した場合、放流魚の捕食圧によりアミ種組成が変動する可能性が示された。   
[成果の活用面・留意点]
浅海域の表在性ベントスの中でも分布量の多いアミ類が極めて大きな季節、年変動を示すのみならず、年により優占種が頻繁に交替する実態を明らかにした。これらの知見は、餌生物の現存量や生産量にあわせた放流条件の決定に利用できる。今後は個々の種の生態や優占種交代の要因解明を進め、砂浜地先魚類成育場における生物生産の全体像を明らかにする必要がある。

[具体的データ]
図1 年度別、種別のアミ類分布密度指数
図2 1994年(上)及び1998年(下)におけるアミ類分布密度指数の季節変化
表1 ヒラメ0歳魚のアミ種に対する摂餌選択性試験結果


[その他]
研究課題名:種苗放流によるヒラメの種内競争および餌生物群集組成の変化過程の解明  
予算区分:行政対応特別研究
研究期間:平成9〜12年度
研究担当者:輿石裕一,清本節夫,曾 朝曙,大坂幸男 
発表論文等:ヒラメ種苗放流海域で見られたアミ種組成の変化(平成11年度日本水産学会秋季大会講演要旨集 p.19)

 目次へ戻る