粘質状浮遊物調査

平成20年粘質状浮遊物原因生物究明調査結果報告


平成21年2月
 
  福岡県水産海洋技術センター有明海研究所
  佐賀県有明水産振興センター
  長崎県総合水産試験場
  熊本県水産研究センター  
  (独)水産総合研究センター西海区水産研究所


T これまでの成果と今年度の目的 
 平成19年の秋季に発生した粘質状浮遊物は、珪藻 Coscinodiscus granii が原因生物であり、本種が産生した透明細胞外重合物質粒子(以下:TEP)に植物プランクトンや浮泥等の懸濁物が付着・凝集したものであると考えられた。しかし、各種珪藻類の室内培養実験では、 C. granii のみならずこれまで粘質状浮遊物を形成したとの報告がない多くの珪藻もTEPを産生することが明らかとなった。このため、今後他種による粘質状浮遊物形成の可能性も否定できない。しかし、現場海域においてどのような植物プランクトンが有明海のTEP現存量に寄与しているのか等は不明のままである。そこで、平成20年度は、上記の5機関による共同調査に加えて、粘質状浮遊物が発生しやすい秋季から春季にかけてのTEP濃度の消長を把握するとともに、それに及ぼす植物プランクトン組成およびその他環境要因の影響を解析した。


U 調査研究の方法と結果

 2007年11月から2008年5月にかけて、有明海奥部から中央部にかけて定点(図1)を設け、1〜2週間の間隔で、表層水の水温および塩分を測定するとともに、海水を採取して研究室に持ち帰り、TEP濃度、クロロフィル a 濃度および植物プランクトン組成を調べた。

1) 有明海奥部
  1)-1. 水温および塩分
  調査期間中の水温および塩分における定点間の差異はほとんどなかった。すなわち、水温は7〜21 ℃の範囲で変動し、最低水温は2008年2月、最高水温は2007年11月であった(図2)。塩分は26〜31 psuの範囲であった(図2)

  1)-2. クロロフィル a 濃度および植物プランクトン組成
 クロロフィル a 濃度は、1.43〜36.4 μg L-1の間で変動し、特にT2およびT1において2つの顕著なピークがあった(図3)。最初のピークは2月27日であり、最大値はT1の36.4 μg L-1であった。2回目のピークは5月1日付近であり、最大値はT2の29.2 μg L-1であった。次に、植物プランクトン組成を調べたところ、2月下旬のT2およびT1において Asteroplanus karianus が優占しており(図4)、出現密度やクロロフィル a 濃度を考慮すると、 A. karianus によるブルームが形成されていたと考えられる。さらに、4月下旬から5月上旬にかけては、いずれの定点においても Skeletonema spp. および Thalassiosira spp. が優占しており、同様にこれら2種によるブルームが形成されていたものと考えられる。

  1)-3. TEP濃度
 TEP濃度は、120〜2,951 μg キサンタンガム当量L-1 (以下:μg Xeq. L-1)の範囲で変動しており、いずれの定点においても Skeletonema spp. および Thalassiosira spp. のブルームが観察された5月1日に最大値を示した(図5)。しかしながら、 A. karianus のブルームが観察された2月27日には明瞭なTEPのピークはなかった。その理由は不明であるが、植物プランクトンのTEP産生能は植物プランクトンの種やその生理状態の違いにより大きく異なることが明らかにされつつあり、今後、室内培養試験によりTEP産生に影響を及ぼす様々な要因を検討する必要がある。

  1)-4. 粘質状浮遊物の発生状況
 調査期間中において、粘質状浮遊物は観察されなかった。しかし、TEP濃度が高かった5月1日に水中に糸状の浮遊物が観察された。

2) 有明海中央部(諫早湾〜島原沖)

  2)-1. 水温、塩分
  諫早湾内(B3)における冬春期の水温の推移は例年並であり、2月は8℃程度であったが、5月には約20℃まで上昇した(図6)。塩分は30〜31 psuの範囲にあった。

  2)-2. TEP濃度および植物プランクトン組成
 クロロフィル a 濃度は定点S6において高く、2つのピークがあった(図7)。最初のピークは2月19日であり、その最大値は13μg L-1程度であった。2回目のピークは3月25日付近であり、最大値は12μg L-1程度であった。また5月上旬にも上昇傾向を示していた。3定点におけるTEP濃度は500〜10,000 μg Xeq. L-1程度の範囲にあり、クロロフィル a 濃度と同時期あるいは若干遅れてピークになる傾向を示した(図7)。植物プランクトン組成は、いずれの定点においても珪藻類が優占していた。

  2)-3. 粘質状浮遊物の発生状況
  有明海中央部における粘質状浮遊物発生状況を図8に示した。2月下旬から4月の中旬にかけて、小規模ながら糸状の粘質状浮遊物が発生し、漁具に付着しているのが観察された。


V 残された課題
  (1)現場調査および室内培養試験による粘質状浮遊物の発生機構の解明
  (2)粘質状浮遊物の発生予測手法の開発
  (3)粘質状浮遊物の抑制手法の探索


W 今後の対応
1. 現場モニタリング調査の継続
 西海区水産研究所および有明海沿岸4県が共同して、自動観測機器によるクロロフィル量等の連続観測を含め、海洋環境のモニタリング調査により粘質状浮遊物の発生を監視する。なお、すでに有明海奥部4定点において連続観測を平成19年11月より実施中である。

2. 粘質状浮遊物の発生機構の解明
 西海区水産研究所は水産総合研究センター交付金一般研究課題「有明海における粘質状浮遊物の原因究明と発生機構の解明」(平成19〜22年)において、長崎県総合水産試験場との共同ならびに他の有明海沿岸3県の試験研究機関の協力により、室内培養試験による粘質状浮遊物の形成能を検証し、現場海域における調査結果とあわせて解析して粘質状浮遊物の発生機構を解明する。


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