独立行政法人 水産総合研究センター 西海区水産研究所
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 石西礁湖における造礁サンゴ白化緊急調査報告 ―2007年8月― (参考資料)

参考資料

【研究の背景】

 サンゴ礁は「海の熱帯林」と呼ばれる豊かな生態系であり、また魚類等の生息場、レクリエーション等の場として文化的、経済的、社会的な価値も高い。しかしながら、現在、世界的規模でサンゴ礁の減少・衰退が進んでいる。サンゴ礁の保全は、東南アジアの発展途上国の多くの人々に食糧と健康な生活を供給するものである。

 1998年7月から9月にかけて我が国の南西諸島全域で造礁サンゴから共生藻が抜け出し、やがて死をもたらす「サンゴの白化現象」が認められた。この時、四国西部、三宅島、小笠原諸島を除いた琉球列島から本州南部にかけての各地でサンゴが壊滅的な被害を受け、南西諸島では40〜60%のサンゴが死滅したと報告されている。

 サンゴ礁生態系の特徴は、サンゴ群集を中心にして様々な生物が複雑に関係を持ちながら極めて高い生物多様性を保持していることにある。そのため、サンゴの白化は生態系の中心に位置するサンゴ群集だけでなく、そこに生息する底生生物や魚類など様々な生物にも影響を及ぼす。

 地球温暖化が懸念される中で、今後サンゴの白化が頻発することが予想される。高い生物多様性が維持され、持続的な生物生産活動が営まれるサンゴ礁を残すためには、サンゴ白化の実態を解明し、生態系への影響を把握して、今後の保全施策に役立てる必要がある。

【研究の内容・特徴】

 今年6月以降、八重山諸島石垣島周辺海域では晴天が続き、西海区水産研究所石垣支所のある石垣島浦底湾礁原部も7月に入ると日平均海水温度が30℃を越える日が続いた(図1)。8月初旬、浦底湾礁原部を含めた石垣島周辺の海域において造礁サンゴから共生藻が抜け出し、やがてサンゴに死をもたらす「サンゴの白化現象」が認められるようになった。石垣島東岸の白保海域では、今回の白化現象は1998年以来の大規模なものであると懸念されている。

 石西礁湖は、石垣島と西表島の間に広がる我が国最大のサンゴ礁であり、沖縄県の沿岸漁業の中心的な漁場としても、また、観光資源としても重要な海域である。水産総合研究センターは、石西礁湖におけるサンゴ白化の現状を正確に把握するため、2007年8月20日から27日の期間に、石西礁湖内全域の水深1〜5mに設定した合計26地点において、10m×4mのコドラート内の造礁サンゴの出現種と被度および白化率などを調査した。

 調査した全地点のサンゴ被度は15%〜70%(平均38%)であり、卓状ミドリイシが優占する外洋に面した礁原〜礁斜面や、枝状ミドリイシが優占する小浜島と西表島の間の水路などで高かった。サンゴの白化は全調査地点で確認され、白化したサンゴの割合は63〜100%であった(図2)。そのうち、すでに死亡していたか、または完全に共生藻が抜けた重度の白化がみられたサンゴの割合は8〜95%であった(図3)。白化の程度は調査地点によって大きく異なり、石西礁湖北側の外洋に面した地点および小浜島と西表島の間の水路や竹富島西側水路など、潮通しの良い地点では、まだ幾分共生藻が残っている軽度の白化のサンゴの割合が高かった。これに対し、石西礁湖の小浜島の東および中央部から南側にかけての礁池では、重度の白化のサンゴの割合が高かった。また、同じ地点でも直射日光を受けるサンゴの表側ほど、白化の程度が重度になる傾向にあった。白化は高被度群集を形成するミドリイシ属で目立ったが、1998年には白化が目立たなかったハマサンゴ属、キクメイシ類を含めた出現したサンゴのほとんどの種で白化が確認されたことから、今回の白化がいかに重篤であるかが伺える。一方、このように白化が重篤な地点でも1年以内に着生したと考えられる直径1cm未満のミドリイシ類をはじめとした稚サンゴは白化の程度が低かった。

 今回実施した石西礁湖全域での調査で、ちょうどサンゴが白化している途中の状況を詳細に記録できた。8月上旬以降の海水温は下降傾向を示している。白化したサンゴが回復するか死滅するかは、現時点では未確定である。白化の程度が重いサンゴは回復せずに死亡する可能性が高く、竹富島東の地点ではすでに15%のサンゴが死亡した。水研センターはこのような白化現象を継続してモニタリングすると同時に、同現象がサンゴ礁生態系にどのような影響をあたえるか調査する計画である。

図1 石垣島浦底湾礁原部水深2mでの日平均海水温

図2 黒島北部の離礁でのサンゴ白化

図3 石西礁湖調査地点におけるサンゴ白化状況