1.マサバ対馬暖流系群の資源評価と問題点 西海区水産研究所資源評価研究室 由上龍嗣
沿資事業により毎年行っている、マサバ対馬暖流系群の資源評価を紹介する。コホート計算による前年までの資源量推定においては、問題点はかなり減ってきたものと思われる。しかしながら、TACの基礎となるABCの算定に必要とされる、当年、翌年の未知の加入量、および年齢別漁獲係数の推定等には手法が確立されておらず、毎年、マイナーチェンジを行いながら凌いでいるにすぎない。これらの問題点を紹介し、改良に向けての手がかりとしたい。
2.イワシ類(対馬暖流域)の資源量変動に伴う生物特性変化 西海区水産研究所資源評価研究室 大下誠二
ほぼ同じ海域に分布するイワシ類(マイワシ・カタクチイワシ・ウルメイワシ)の資源動態がなぜ種毎に異なるのか?という命題に関して、過去の資料の整理を行うことで解明することを目的としている。この発表では、成長様式、繁殖様式の違いなどを通して、適応進化という観点からイワシ類の資源動態に関する簡単な所見をまとめてみたい。
3.シミュレーションを利用した資源管理 -小型鯨類を例にして 遠洋水産研究所鯨類管理研究室 岡村 寛
シミュレーションを利用して不確実性を考慮した資源管理の例を紹介する。小型鯨類の管理方式としてどのようなものが良いかを探索するためにシミュレーションモデルを開発した。比較した管理方式は伝統的な増加率と資源量の積によるもの、PBR(米国で開発されたもの)、BAC(PBRをベイズ的に拡張したもの)の3つである。シミュレーションはBACによる管理が有望なものであることを示した。
4.オペレーティングモデルを用いたミナミマグロ管理方式の開発 遠洋水産研究所温帯性まぐろ研究室 黒田啓行
ミナミマグロをどの様に管理していくか、みなみまぐろ保存委員会で開発が進められた管理方式について紹介する。開発にあたってはまず資源動態の不確実性を考慮したオペレーティングモデルを作成し、そのもとで管理方式のパフォーマンスを評価することで最善のものを選択する。このようなオペレーティングモデルおよび管理方式の考え方は、TAC制度を見直していこうとする我が国の水産資源管理にとって、重要なツールとなるだろう。
5.大陸棚−黒潮系水域生態系におけるマイクロネクトンの役割の解明 西海区水産研究所資源生態研究室 佐々千由紀
これまで研究が殆ど行われてこなかった東シナ海域におけるマイクロネクトンの生態調査を実施し、その知見を蓄積することにより、水産上重要な浮魚・底魚類の資源変動にマイクロネクトンがどの様に関わっているのかを定性的に、一部については定量的に明らかにする取組を紹介する。
6.安定同位体比手法を用いたいわし類の生態研究 西海区水産研究所資源評価研究室 田中寛繁
小型浮魚類のうち、特にいわし類をとりまく被捕食関係や生態系を検討する上で胃内容物解析に加えて安定同位体比手法を適用した例を紹介する。東シナ海の表中層における被捕食関係のほか、カタクチイワシについて安定同位体比の海域比較(特に沿岸・沖合間)を行った例などについて紹介する。
7.海洋生態系における捕食・被食関係の解析 遠洋水産研究所外洋資源部 米崎史郎
近年,海洋生態系を主眼とした資源管理・環境保全の必要性が求められ、また環境変動に対する生態系の応答にも注目が集まっている。これらの実現や理解に向けた捕食・被食の解析から、生態系は時空間スケールによって異なる顔を持つことがわかってきた。ここでは、東北沖を中心とした捕食者と餌生物との相互関係について、ベイズモデルや安定同位体・胃内容分析などの研究ツールを使った事例を紹介する。
8.モデル解析の混獲問題への応用 遠洋水産研究所混獲生物研究室 清田雅史
海面漁業においても漁業資源だけでなく非漁獲対象生物や環境への配慮が求められており、まぐろはえ縄漁業ではサメ類、海鳥類、海亀類の偶発的な捕獲(混獲)が重大な国際問題になっている。しかし、混獲データは不完全性・不確実性を多く含み、混獲生物の個体群パラメータには不明な点も多いため、混獲レベルの推定や影響評価には不確実性を考慮した解析手法が必要となる。また、最近では漁獲される全ての生物を対象として漁業の影響を評価する生態リスク評価(ERA)を導入する動きも出始めている。こうした混獲を巡るモデル解析の事例を、背景に潜む問題点を交えて紹介する。