独立行政法人 水産総合研究センター 西海区水産研究所
研究トピックス No.3
 有明海西部の干潟に広がる「カキ礁」の役割とその回復に向けて

  有明海の奥部では最大約6mにもおよぶ干満差があるうえに筑後川をはじめとした河川が多数流れ込むため、日本最大の面積を持つ干潟が形成されています。豊穣な栄養分が絶えず供給される干潟は、多様な生物の暮らす場所として有名ですが、有明海ではカキも重要な「住人」となっています。カキと言えば岸壁のコンクリートに張り付いている姿を思い出します。でも一番身近なマガキなどは、干潟などにかたまって浮かぶように生活していることも多く、このようなカキの塊を「カキ礁」と呼んでいます。カキ礁は有明海の他、八代海や東京湾、仙台湾など干潟の発達した内湾に点在しますが、有明海ほど大規模なものはありません(写真1)。
  また、有明海のカキ礁はただ大きいだけでなく、マガキ、シカメガキ、スミノエガキの3種(写真2)で構成されるという他では見られない特徴を持っており,生物群集としても極めて貴重な存在です。
  しかし、そんな有明海のカキ礁も埋め立てやナルトビエイの食害などにより30年前に比べ30%以下にまで減少し、西部の干潟に見られるだけになってしまいました。近年有明海では植物プランクトンの異常増殖によってノリや魚類の養殖に被害を及ぼす赤潮や貧酸素が毎年のように発生し、大きな問題となっています。一方、カキ類は一個体で1時間に10〜30Lもの海水を濾(こ)してしまう能力を持っており、有明海の広大なカキ礁には赤潮の原因プランクトンを除去する機能が期待されます。当研究所では、有明海の干潟に存在するカキ礁の実態やその役割を調査・解明したうえで、昔のようなカキ礁を復活させ、健全で豊かな海を取り戻すことが出来ないか取り組んでいます(写真3)。
  おいしいカキを増やすことで有明の海が少しでも良くなってくれればと願わずにいられません。



写真1.有明海西部沿岸のカキ礁
(上3枚)
写真2.カキ礁を構成するカキ類
     
写真3.カキ礁での調査風景