公表日 2020年6月20日
研究実施者:水産技術研究所 沿岸生態システム部 山田秀秋 ほか
温帯域のアイゴは藻場を食い荒らす害魚として扱われることがありますが、亜熱帯の海草藻場ではアイゴ稚魚が沢山分布するにも関わらず、問題を引き起こすことはありません。その理由を知るためにはアイゴの食性を詳しく調べる必要があるのですが、消化管には海藻(*1)、海草(*2)、甲殻類、貝類等さまざまな生物の断片がみられるため、アイゴにとっての各生物の餌料としての重要性は判っていません。そこで、アイゴ稚魚を対象に飼育実験と炭素・窒素安定同位体比分析を行い、寄与率(体組織を形成するための栄養源としての貢献度)を推定しました。天然個体の分析に際しては、アイゴが野外で摂食している可能性が高い生物4種(海草;リュウキュウスガモ、海藻;イトクズグサ、甲殻類;イソサクラエビ、巻貝;キンランカノコ)を対象として数値解析を行いました(実際には様々な生物を摂食しています)。
海草とオキアミを混合給餌した場合、アイゴは海草を積極的に食べましたが、海草の寄与率は10%以下で、オキアミが90%以上を占めました(図1)。天然個体でも、海草は消化管内に沢山出現するものの、その寄与率は10%以下でした。ただし、飼育個体では海草を餌料に追加することで成長が良くなりましたので、常に量的に豊富な海草類は補助的な餌料としての役割を担っていると考えられます。天然のアイゴは、甲殻類と海藻(イトクズグサ等の小型海藻)を主要な栄養源としていることが示されました。アイゴの摂食活動は、海草表面に付着した小型海藻(図2)を微細な段階で除去することで海草類の生育にプラス効果をもたらしている可能性があります。この研究成果は、水産増殖(日本水産増殖学会発行)第68巻第2号に掲載されました。
*1 海藻:緑藻(アオサなど)、褐藻(ワカメなど)、紅藻(ノリなど)の総称
*2 海草:海中に生える種子植物(アマモなど)
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