ホルマリン固定標本からのDNA抽出法と種判別への応用
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[要約]
- フエフキダイ科魚類のホルマリン固定標本からのDNA抽出法を検討し、種判別への応用技術を開発した。この技術により、ホルマリンで固定された古い標本から抽出されたDNAを用いた種判別が可能となった。
西海区水産研究所 石垣支所 沿岸資源研究室・資源増殖研究室
[連絡先] 09808−8−2571
[推進会議] 西海ブロック
[専門] 資源
[対象] 魚類
[分類] 研究
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[背景・ねらい]
- 八重山周辺海域には多種のフエフキダイ科魚類(図1、2)が生息しているが、種判別のための仔魚期の形態に関する情報は少ない。著者らは沿岸性魚類の初期生態解明のため、稚魚ネットによる稚仔魚の採集を行っているが、得られた稚仔魚のホルマリン固定標本からの形態による種判別は困難であり、初期生態解明の障害となっている。本研究は、これらホルマリンで固定された標本からのDNA抽出技術を確立し、その技術を用いてフエフキダイ科魚類の種判別への応用の可能性を検討することを目的とした。
[成果の内容・特徴]
- ホルマリン標本からのDNAの抽出方法を検討した。ホルマリンが尿素及び蛋白分解酵素Kによるタンパク質変性を阻害するため、標本を細切した後エタノールに浸漬してホルマリンを除去し、さらに尿素及び蛋白分解酵素Kによる処理を複数回行うことによって、DNAを抽出することができた。
- 抽出したDNAをアガロースゲル電気泳動法で調べたところ、帯状のバンドのみが観察されたことから、DNAはホルマリンにより多数の断片に切断されていることがわかった。
- 次に、遺伝子増幅法(PCR)によりミトコンドリアDNAのCOI、12S
rDNA、16S rDNA領域及び核DNAのITS-1領域を増幅したが、泳動の結果、目的の増幅断片は確認できなかった。そこで、1回目のPCR産物を用いて同じプライマー(増幅を始める起点)で2回目のPCRによる増幅を行った結果、多くの個体で同じ大きさの目的の増幅断片が確認できた(図3)。
- 次に、増幅断片を12種類の制限酵素を用いて切断し、その断片長多型(RFLP)によって種判別の可能性を検討した結果、制限酵素によって種ごとの切断パターンが異なることがわかった(図4)。
- 本研究の結果、複数の酵素による断片長を組み合わせることによりフエフキダイ類9種の判別が可能となった。
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[成果の活用面・留意点]
- 本研究の成果は、博物館等に保管してあるホルマリン標本からの簡便なDNA抽出法として利用することができる。また、将来的には標本を浸漬してあるホルマリン溶液中の微細組織からのDNA抽出も可能となると考えられる。さらにはホルマリン標本のみならず、卵や稚仔魚等の微小個体からのDNA抽出にも応用することができる。ただし、ホルマリン標本を用いて制限酵素断片多型による種判別を行うためには、生あるいは冷凍の成魚を用いて予め判別のためのデータベースを構築し、複数の制限酵素及び領域を用いて解析を行うことが必要である。
- [具体的データ]
図1 イソフエフキ(八重山漁協魚市場)
図2 ハマフエフキ(八重山漁協魚市場)
図3 2回目の遺伝子増幅法(PCR)による結果例(mtDNAの12S
rDNA領域)
M:サイズマーカー(200bp ladder)
1:酸性ホルマリン固定標本
2:中性ホルマリン固定標本
A:イソフエフキ、B:ハマフエフキ、
C:キツネフエフキ、D:シモフリフエフキ、
E:アミフエフキ、F:ヨコシマクロダイ、
G:アルコール固定標本から抽出したハマフエフキ
図4 COI領域に制限酵素Dde Iを用いたときの断片長多型(RFLP)による種判別
M:サイズマーカー(200bp ladder)
1:イソフエフキ、2:ハマフエフキ、
3:ハナフエフキ、4:キツネフエフキ、
5:シモフリフエフキ、6:ヨコシマフエフキ、
7:アミフエフキ、8:ヨコシマクロダイ
[その他]
研究課題名:亜熱帯域における沿岸重要資源生物の産卵生態及び初期生態の解明
予算区分:経常研究
研究期間:平成9〜13年度
研究担当者:小林正裕、玉城泉也、加藤雅也、水戸啓一、栗原健夫
発表論文等:フエフキダイ科魚類におけるホルマリン固定標本からのDNA抽出法と種判別への応用(2000年度日本魚類学会大会講演要旨集,p49)
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