流れ藻は中国からもやって来る
小西 芳信
(西海区水産研究所東シナ海漁業資源部浮魚生態研究室)

〔成果の概要〕
流れ藻は、岩場に繁茂するホンダワラ類の海藻が十分に成長し成熟する時期に、波浪などによって根切れして海表面を漂流する藻である。流れ藻に付随するブリの幼稚魚(モジャコ)は、採捕されてハマチ養殖の種苗に向けられる。従来、九州西岸に分布する流れ藻は付近の藻場から発生すると考えられてきたが、2000年4〜5月に出現した藻は中国南部の浙江省以南の沿岸から漂流してきたものが主体であった。
〔背景・ねらい〕
九州西岸のモジャコ採捕漁業は、近年、沿岸藻場の磯焼けによる流れ藻発生量の減少等によりきわめて低調に推移しているが、2000年4〜5月における藻の分布量は太平洋側も含めかなり多かった。この時の流れ藻の発生起源や発生条件、並びに漂流経路を明らかにすることは、モジャコ採捕漁業の漁況予測の精度向上、並びにモジャコやマアジ等の幼稚魚が流れ藻とともに対馬暖流や黒潮によりそれぞれ日本海側及び太平洋側に輸送・配分され加入する機構の解明に貢献する。
〔成果の内容〕
  1. 2000年4月11日〜5月2日の間に西海区水産研究所漁業調査船陽光丸により行った産卵調査中、東シナ海中・北部の大陸棚縁辺(奄美大島西から鹿児島県甑島西の沖合)に漂流する大量の流れ藻(以下、沖合流れ藻と記す)を視認した(図1)。
  2. 南北390km、東西50〜100kmの海域に散在していた藻は、アカモク(写真1)が主体でサイズは直径約1〜5m(2〜3mが主体)、なかには帯状に連続して見られた。
  3. 流れ藻の分布域は、表面水温16〜20℃台の範囲にあり(図1)、海水の流向・流速パターン(図2)等からみて、黒潮系水と大陸沿岸系水の潮境及び両水系の混合域であった。
  4. 九州西岸の藻場は、1970年以降磯焼け現象により流れ藻になる海藻の繁茂が悪い。また、台湾には大規模な藻場は見られず、沖縄県の南西諸島にもホンダワラ類は自生しない。
  5. アカモクは中国南部の浙江・福建・広東省に多産し、2000年2月(流れ藻の発生直前と思われる)の浙江省の沿岸水温は例年と比べ4℃前後低く同年3月には例年並となった。
  6. 沖合流れ藻の分布域周辺では、台湾海峡からの北東流及び台湾北東域からの北東流等の海流が合流して対馬暖流が形成される。
  7. 上述した九州西岸の海藻の繁茂状況、中国におけるアカモクの分布、中国浙江省の水温変動の特徴、海水の流動環境、並びに流れ藻の寿命(少なくとも2か月)から考えて、2000年4〜5月に見られた沖合流れ藻の発生源は中国南部とみられる。
  8. 2000年漁期のモジャコ漁場における流れ藻及びモジャコの出現量は、近年では特異的に太平洋側と九州西岸のほとんどの沿岸できわめて良好で、過去の海流瓶調査結果等を参考にすると、これら沿岸に出現した藻は沖合流れ藻に由来すると想定される。
  9. 今後、沖合流れ藻の大量発生の海洋学的条件、東シナ海大陸棚縁辺の全域における流れ藻分布及びそれらの南日本のモジャコ漁場への来遊実態を調べることが必要である。
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