東シナ海とその周辺におけるマアジ産卵場の時空間分布と海洋環境の解明


[要約]
ふ化後間もない仔魚分布特性から見ると、マアジは東シナ海南部・中部の陸棚縁辺域と九州西岸で産卵するが、主産卵場東シナ海南部である。産卵場の水温環境 は、東シナ海南部・中部で高く、九州西岸で低い。
西海区水産研究所 東シナ海漁業資源部 浮魚生態研究室
[連絡先] 095−833−2685
[推進会議]西海ブロック 
[専門]  資源生態
[研究対象]あじ 
[分類]  調査
[水産研究技術開発戦略別表該当項目]1(1)水産資源の生物特性の解明

[背景・ねらい]
マアジのABC(生物学的漁獲許容量)を高い精度で算定するためには、本種の加入機構を明らかにして加入量の予測精度を向上させる必要がある。我が国周辺に分布するマアジの主補給源は東シナ海にあるとみなされており、ここで産卵された卵・仔稚魚の一部は対馬暖流や黒潮によって輸送され、日本海側あるいは太平洋側で資源に加入する。したがって、本種の加入機構を明らかにするためには、東シナ海における産卵実態を把握する必要がある。 本研究では、卵・仔魚の分布生態に基づいて、東シナ海陸棚縁辺の広大な海域と考えられていた産卵場をさらに特定し、その場の海洋環境条件を把握することをねらいとした。

[成果の内容・特徴]

  1. 平成12年2、3、4月に九州西〜東シナ海陸棚縁辺域で行った調査船調査により、ボンゴネットを用いて卵・仔魚を採集した。
  2. ふ化後間もない体長3mm未満の仔魚は、東シナ海南部・中部の陸棚縁辺域と九州西岸に分布した(図1)。マアジと思われる卵は各月とも東シナ海南部の一点のみで採集された。
  3. 仔魚が採集された定点の水温(10m層)は、東シナ海南部・中部で20〜26℃、九州西岸で15〜20℃であったが、塩分濃度は水域差が認められず34.2〜34.6PSUの範囲で出現した(図2)。
  4. 仔魚は各月とも東シナ海南部で最も多く採集された。同水域では2月に最大出現数を示し、その後3月、4月と次第に減少しており、既往知見とおおむね一致した(図3)。
  5. 以上のことから、東シナ海とその周辺におけるマアジの主産卵場は東シナ海南部の陸棚縁辺域であること、ほかに同中部の陸棚縁辺域と九州西岸でも産卵されていることが明らかとなった。また、分布水温から見て東シナ海南部・中部で産卵された仔魚は九州西岸のものより成長速度が速いことが示唆された。
[成果の活用面・留意点]
成果は、主として東シナ海とその隣接海域を調査域とするプロジェクト研究「産卵場形成と幼稚仔魚の輸送環境の変化が加入量変動に及ぼす影響の解明」で行われる加入量予測モデルの構築に重要な知見を提供するとともに、本種のABC算定の精度向上に貢献する。今後は、東シナ海南部を重点に海洋環境条件との関連で産卵場の形成・維持機構を明らかにする必要がある。
[具体的データ]
図1 2001年2〜4月におけるマアジ仔魚(体長3mm未満)の水平分布(上段:等深線との対応、下段:表面水温との対応)
図2 体長3mm未満のマアジ仔魚の個体密度と10m水温・塩分との対応
図3 2001年2〜4月における体長3mm未満のマアジ仔魚の海区別分布量

[その他]
研究課題名:ネットサンプリングによる産卵場の特定と海洋環境との関わり
予算区分:現場即応研究「我が国周辺海域における漁業資源の変動予測技術の開発」
研究期間:平成12〜14年度
研究担当者:佐々千由紀・小西芳信
発表論文等:東シナ海陸棚縁辺域におけるマアジ仔稚魚の水平分布と海洋環境
           平成13年度東京大学海洋研究所共同利用研究集会口頭発表
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