有明海における海色衛星画像の検証とクロロフィルの時空間変動
清本容子・岡村和麿*1藤原 豪*2、半田亮司*3、川村嘉応*4、吉田雄一*5、山本憲一*6
(*1 東シナ海海洋環境部生物環境研究室・*2 科学技術振興事業団・*3 福岡県水産海洋技術センター有明海研究所・*4 佐賀県有明水産振興センター・*5 熊本県水産研究センター・*6 長崎県総合水産試験場)

[成果の概要]
 有明海における既存の海表面クロロフィルa(Chl.a)実測値を用いてSeaWiFS海色衛星画像の検証を行い、佐賀県水域及び熊本県地先沿岸水域において海色衛星画像の有用性を示した。一方で有明海ではごく短時間でChl.aの分布が大きく変動し得ることも明らかとなった。

[背景・ねらい]
 年度冬季の有明海において、珪藻赤潮の発生と栄養塩濃度の低下に伴う養殖ノリの色落ち現象が大きな社会問題となった。海色衛星は海表面のクロロフィルa濃度以下Chl.a を広域かつ時系列で入手可能なことから、植物プランクトンの分布状況を把握する有効な手段の一つである。しかしながら、典型的な強閉鎖性浅海であり、多くの大型河川から堆積物が流入する有明海においては、外洋域に比べて衛星によるChl.a推定値の精度が低下することが予想される。そこで、有明海において船舶観測より得られたChl.a実測値と海色衛星によるChl.a推定値との比較を行うとともに、Chl.a実測値の時空間変動について検討した。

[成果の内容]
 各機関での現場観測値の取得数、観測時期、衛星画像の検証データ数を表1に示した。海色衛星画像データは、NASDA/EORCで処理・公開されているもの(SeaWiFSLAC-AREA 10 image)を使用し、船舶観測位置のピクセルを中心とする計9ピクセルの平均値と現場観測値との比較検討を行った(図1)。
  1.  福岡県水域では、衛星によるChl.a推定値は濃度域により過大もしくは過小評価となった(図1a)。過大評価となった事例では筑後川等から流入する陸起源懸濁物質の影響が強かったと推定される。逆に、現場観測値が30μg/Lを超えた春季の1例で過小評価となった。
  2.  佐賀県水域及び熊本県地先沿岸水域では海色衛星画像と現場濃度との有意な相関が認められ、海色衛星画像の有用性が示唆された(図1b,図1c)。
  3.  2001年月及び月に有明海湾奥部で表層Chl.aの反復観測を実施し、短期変動の把握を試みた。夏季の観測時には濃度や分布パターンの日内変動が極めて大きく、潮汐及び干満差が非常に大きい有明海では水塊の移動等に伴いごく短時間でChl.aの分布が大きく変動し得ることが明らかとなった(図2)。
[成果の利活用・普及、問題点等]
  有明海における植物プランクトンの分布状況を把握する手段として海色衛星データの有用性が示唆されたが、河川の影響がある浅海域では過大評価となる可能性があり、さらに検証を進める必要がある。また、その利用に際しては潮汐等に伴う短期変動にも注意する必要がある。

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