ウマヅラハギとサラサハギの種間雑種
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[要約]
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ウマヅラハギは1960年代に精力的に研究されたが、その形態形質にやや混乱がある。この混乱はウマヅラハギとサラサハギとの自然交雑個体の誤査定が原因ではないかと考えられた。東シナ海から採集された雑種と思われる個体の標本群は斑紋、尾鰭形状、計測形質、計数形質において、両種の特徴をモザイク的にもっているか、中間的な特徴を示してた。このことから、これらは両種の自然交雑の結果生じた雑種個体であると判定した。
西海区水産研究所 東シナ海漁業資源部 資源評価研究室
[連絡先] 095-833-2686
[推進会議名] 西海ブロック
[専門] 資源生態
[研究対象] 他の底魚
[分類] 研究
[研究戦略別表該当項目] 1(1)水産資源の生物特性の解明
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[背景・ねらい]
- 東シナ海には多種多様な魚類が生息し漁獲対象とされている魚類も極めて多種である。これらの中には形態的に酷似した種も多く見られ、魚種区分が的確に行われていない事例もあり、資源研究の障害ともなっている。
- 本研究の親種の一方であるウマヅラハギは1960年代に東シナ海や日本沿岸で大発生し、その後主要な漁獲対象種となった。当時、日本および周辺国によって精力的に知見が蓄積されたが、一部には形態形質にやや混乱がみられる報告がある。これは、ウマヅラハギとサラサハギの自然交雑個体をウマヅラハギと誤査定している可能性が考えられた。本研究では両種の間に自然交雑が恒常的に発生していることを示すことを目的とした。
[成果の内容・特徴]
- 1998年から2001年の間に以西底びき網漁業の漁獲物および調査船調査から標本(7個体)を採集し、形態形質の分析を行った。雑種と考えられる個体の雌はウマヅラハギとサラサハギの両種の色彩・斑紋の中間的な特徴か、両種の特徴をモザイク的にもっていた。雄は体側斑紋の形状が親種のどちらとも異なったがその他は雌と同様であった(図1)。主成分分析の結果は、雌雄ともウマヅラハギとサラサハギのほぼ中間に位置された(図2)。背・臀鰭及び胸鰭条数等の計数形質は2種の中間的値を示した。
- これらの標本群は斑紋、尾鰭形状、計測形質、計数形質、において、ウマヅラハギとサラサハギの特徴をモザイク的にもっているか、中間的な特徴を示しており、ウマヅラハギとサラサハギの自然交雑の結果生じた雑種個体であると考えるのが妥当である。
[成果の活用面・留意点]
- 沖合域においても、産卵時期・場所等が重複する場合には近縁種間の自然交雑が普通に発生している可能性が示唆された。今後は、自然交雑個体による情報の混乱を考慮することにより、過去の知見の再検討や分布・回遊等の調査を行う際により正確な情報を得ることができる。
[具体的データ]
図1 雑種とその親種
説明:雑種個体は親種の特徴をモザイク的または中間的に持つ。両種ともに性差が大。雑種♀(B)では、背・臀・胸鰭が黄緑色である(両種の中間型)。尾鰭は青緑色で基部および端部に幅広い暗色横帯がある(両種の中間型)。体側に色においても大きさにおいても、ウマヅラハギとサラサハギの中間的な茶褐色雲状斑が散在する。
A 雑種♂
B 雑種♀
C サラサハギ♂
D サラサハギ♀
E ウマヅラハギ♂
F ウマヅラハギ♀
図2 雌雄別の主成分分析結果
説明:雄(A)、雌(B)ともに第1主成分(PC1)の負の領域にウマヅラハギ、正の領域にサラサハギが位置し、両種は互いに明瞭に分離している。しかし、雑種と思われる個体はその中間的な場所に位置している。
[その他]
研究課題名:東シナ海・黄海産主要魚類資源の生物特性と調査手法の整合に関する研究
予算区分:経常研究
研究期間:平成10〜14年度
研究担当者:山本圭介
発表論文等:1999年日本魚類学会口頭発表
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