2001年の有明海におけるマクロベントスの分布密度と底質環境


[要約]
有明海北部海域に53の調査点を設け、6月と10月に底質及びマクロベントスの分布密度を調査した。全動物の平均分布密度(個体数/u)は、6月が2,630、10月が1,494であり、他の海域と比較して低い値ではなかった。ただし、10月には泥底域の分布密度が大きく減少し、成層期における環境悪化の影響が示唆された。
西海区水産研究所 海区水産業研究部 資源培養研究室
[連絡先]  095-833-2695
[推進会議] 西海ブロック
[専門]   漁場環境
[対象]   ベントス
[分類]   研究
[研究戦略別表該当項目] 2(3)重要沿岸生物資源の生物特性の解明

[背景・ねらい]
有明海で漁獲対象となっている貝類はいずれも生産量が減少し、最近年に事実上絶滅した種もある。マクロベントスは移動性に乏しく寿命が比較的長いので、その分布量や組成は過去の履歴を反映しており海底環境を知る有効な指標となる。本研究では悪化が懸念されている有明海の海底環境の現状把握を目的として、北部海域に53調査点を設けて採集を行った。採集は6月と10月に行い、成層期前後の分布密度の違いにも注目した。

[成果の内容・特徴]

  1. スミス・マッキンタイヤー型採泥器により採取した底泥の一部について底質を分析した。53調査点の中央粒径値(Mdφ)の頻度分布を見ると、比較的明瞭な二つピークが認められ(図1)、砂底及び泥底の2海域に分けられた。泥底の調査点は6月が23点、10月が27点であり(図3a)、泥底域は過去の調査結果と比べ拡大する傾向を示した。
  2. 全動物の平均分布密度(個体数/u)は、6月が2,630、10月が1,494であり、動物群別に見ると6月は多毛類が最も多く、二枚貝、ヨコエビ類の順に出現し、10月は3位がクモヒトデ類に入れ替わった。また、底質別に6、10月の動物群別の平均分布密度を比較すると、密度変化は泥底域で顕著で、甲殻類の減少が大きかった(図2)。
  3. 10月の全動物分布密度は泥底域で低く底質粒径と対応するパターンを示した。一方、6月は湾奥部の調査点で密度が高く、特定のパターンは認められなかった(図3)。
  4. マクロベントスの分布密度を底質別に他の海域と比較したところ、2001年6月は砂底域が同水準で、泥底域は高かった(表1)。ただし、有明海における既往の調査結果と比較すると、近年は減少傾向が見られ環境悪化との対応が示唆された。

[成果の活用面・留意点]

 今回の調査では6月の泥底域で甲殻類密度が高かった。有機汚染の進んだ海域では甲殻類の密度が低下するのが一般的であることを考えると、これは、特異な結果とも言える。したがって、2001年の結果を正確に評価するため引き続き調査を行う予定である。
 湾奥部の泥底域の拡大については、鎌田(1967)及び古賀(1991)の報告を、全動物分布密度の変動については東(2000)の報告を用いて比較を行った。

[具体的デ−タ]
図1.底質の中央粒径値(Mdφ)の頻度分布 2001年6月
図2.底質別(M:泥、S:砂)、採集月別の生物群別分布密度
図3.有明海北部海域における2001年の底質粒径(Mdφ、a)、6月(b)及び10月(c)の全動物分布密度(N/0.1u)



[その他]
研究課題名:二枚貝等の生産阻害機構の解明と生産回復手法の開発
予算区分:行政対応特別研究「有明海の海洋環境の変化が生物生産に及ぼす影響の解明」
研究期間:平成13〜15年度
研究担当者:輿石裕一、清本節夫
発表論文等:底質から見た有明海北部の海域区分とマクロベントスの分布
      水大校研報 51(印刷中)
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