春期の東シナ海表層におけるカタクチイワシシラスの分布生態

小西 芳信・佐々 千由紀
(西海区水産研究所東シナ海漁業資源部浮魚生態研究室)

[成果の概要]
 春季の東シナ海表層においてカタクチイワシシラスの分布調査を行った。その結果、(1) カタクチシラスは九州西方沖や東シナ海中・南部など従来に考えられていたよりかなり沖合域にも高密度で分布すること、(2) その水平分布様式や現存量には年による違いが認められること、東シナ海の表層においてカタクチシラスは昼間にもまとまって採集されることなどが明らかとなった。

[背景・ねらい]
 東シナ海における浮魚資源の加入機構および変動機構を解明する上で、それらの卵仔稚魚の分布生態を把握することが研究の出発点となる。しかし、これまで九州西岸・西方から東シナ海陸棚縁辺域において充実した広域調査が実施されておらず、これらの知見が非常に限られている。そこで当研究室では2000年以降、冬季から春季に東シナ海の広域において浮魚類の卵仔稚魚の分布調査を実施している。ここでは、春季の東シナ海表層におけるカタクチシラス (ここでは体長15〜30 mmのカタクチイワシ仔稚魚を指す) の分布生態についてこれまでに得られた知見を紹介する。

[成果の内容]
  1. 調査海域:調査は西海区水産研究所漁業調査船陽光丸により2000〜2002年の4月に九州西岸から東シナ海陸棚縁辺域に設けた79〜107測点において行った (図1)。
  2. 採集器具:仔稚魚の採集にはニューストンネット(口径1.3×0.75 m, 側長3.5 m, 目合1.0 mm) を用いた。ネットは調査船の艫から曳網し、曳網位置が船首部で生ずる航走波の沖側になるようにワープ長を60mに設定した (図2)。曳網速度は約3.5ノット、曳網時間は10分間とした。曳網の結果、充分な数のカタクチシラスが得られ、ニューストンネットがカタクチシラスの分布特性を解析する採集具として有効であることが分かった。
  3. 水平分布様式:2000年と2001年にはカタクチシラスは東シナ海の陸棚縁辺域から九州西岸・西方の大陸沿岸系水または九州沿岸系水と黒潮系水との混合域に分布した(図1)。一方、2002年には東シナ海南部に偏在し、九州西方・西岸では極めて少なかった(図1)。いずれの年も表面水温16〜23℃、2 m塩分33.0〜34.6 PSUの水塊中に高密度で出現した。本研究より、カタクチシラスは従来考えられていた九州西岸に加え、東シナ海の陸棚縁辺域にも分布すること、さらにその水平分布様式や現存量には年変動があることが明らかとなった。
  4. 採集数の昼夜比較:カタクチシラスは昼間でも夜間と同程度かそれ以上の高い個体密度で採集され(表1)、東シナ海では昼間にも表層にカタクチシラスが多量に分布すると考えられた。従来はカタクチシラスの海面表層における採集は主に夜間にみられることが多く、このことは仔魚が昼間には中層に分布し夜間になると表層に浮上するためと考えられてきた。本結果は、従来の報告とは異なる現象であり生態学的にみて非常に興味深い。


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