衛星画像による東シナ海マアジ産卵場の海域特性の把握

西濱 士郎・阿部 和雄
(西海区水産研究所石垣支所海洋環境研究室)


[成果の概要]  
 東シナ海においてマアジの卵稚仔分布水温帯である海表面水温15〜25℃の海域の面積を、卵稚仔の出現時期である1月から6月にかけて衛星画像によって計測し、その時間変化を検討した。1月から4月にかけては、北緯30 度以南での面積は以北の2〜2.5倍で、どちらもほぼ横ばいで推移するが、4月から5月に水温の上昇に伴いその関係が逆転し、南部では6月に適水温帯が消失した。また、マアジ卵が採集された東シナ海の南西端にあたる台湾北部海域において、湧昇域とそれに隣接する冷水域が周年存在することが、衛星画像の検討から明らかになった。

[背景・ねらい] 
 東シナ海のマアジ産卵場、および仔稚魚の生態には未だに不明な部分が多く、資源管理の上からも初期生態に関する知見が求められている。本研究室が参画してきた農林水産技術会議プロジェクトFRECSおよびFRECS2において、マアジ卵・仔稚魚の分布が明らかになってきており、東シナ海中南部の黒潮前線域に多量の仔稚魚が分布することが分かってきた。本研究では、人工衛星リモートセンシングによる海表面水温の観測から、マアジ産卵場および仔稚魚の分布域の海域特性を把握することを目的とした。

[成果の内容]  
  1.  マアジ産卵親魚および卵稚仔は、水深200m以浅の海域で水温15〜25℃の範囲に分布することから、マアジ産卵期の1月から6月にかけて、人工衛星による海表面水温画像を用いて、該当海域の面積を計測し、その月変化と年毎の変異を検討した。1996〜2002年までの資料を解析した結果、年によって多少の変異はあるが、基本的なパターンに大きな変動はなかった。すなわち、1月から4月にかけて北緯30 度以南の海域での該当海域の面積は、30度以北の2〜2.5倍で、南部ではほぼ横ばいで北部はやや縮小傾向であったが、4月から5月にかけて、水温の上昇とともにその関係が逆転し、6月には南部海域での該当海域はほぼ消失した(図1)。
  2.  夏期に東シナ海の広域で高水温が観測された1998年では、北緯30度以北の該当海域の拡大が4月に既に認められ、南部海域での5月の縮小は他の年よりも著しかった。2001年の夏期も高水温が観測され、この年の4月に北部海域での拡大が若干認められるが、ほぼ平年並みであった。
  3.  図2に示すように、台湾北部海域では台湾の東西から北上する暖水に挟まれるような形で、水温の低い海域が存在する。このパターンはほぼ周年認められるが、水温が低下する冬期から春期には明瞭に現れていた。台湾北東の大陸棚縁辺部には湧昇域があると考えられ、これらの中規模海洋構造はマアジ産卵場の形成に関連すると考えられる。


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