九州南西海域における黒潮流軸の南北移動
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[要約]
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卵稚仔の輸送に大きく影響する黒潮の変動特性をフェリーに搭載した超音波流速計による流れのモニター、調査船による曳航式超音波流速計観測、係留系観測で明らかにした。
西海区水産研究所東シナ海海洋環境部海洋動態研究室、鹿児島県水産試験場
[連絡先] 095-860-1623
[推進会議名] 西海ブロック
[専門] 海洋構造
[研究対象] 海洋変動
[分類] 調査
[研究戦略別表該当項目] 3(1)海洋変動予測手法の開発
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[背景・ねらい]
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東シナ海の大陸棚縁辺から九州西岸および南岸にかけての海域は、マアジ等浮魚類の産卵場および漁場になっている。同海域では、黒潮は大規模な流路変動を示し(図1)、さらに黒潮の小蛇行に伴なう前線渦、暖水渦や暖水舌による黒潮からの暖水波及が見られる。これらの現象は、前述の浮魚類卵・稚仔の輸送や漁場形成等に強く影響を与える。本研究では、九州南西海域での黒潮の変動を、流速場から把握することを目的とした。
[成果の内容・特徴]
- 鹿児島と那覇間を運航するマリックスライン社所有のフェリーに流速計と水温計を搭載し、約4日で1往復の割合で表層3層(5、30、50もしくは100m深)の流速と表面水温を観測している。また、フェリー航路およびその西側海域で陽光丸による曳航式ADCPを用いた鉛直的に詳細な流速観測や係留式流速計による1年間の連続観測を行った(図2)。
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航路上で、黒潮流軸(流速の最も速い部分)は南北に移動するが、出現位置はほぼ3個所(図2の@、A、B)に分類された。
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黒潮流軸は、Aまで南下する場合とBまで南下する場合があった。後者は、流軸の急激な南下と比較的ゆっくりとした北上が特徴であり(図3)、約40日に1回の割合で発生し、1回の現象には10〜30日程度要した。この現象は黒潮流路の2つのパターン(図1)間の遷移を表し、西側海域から伝播してくることが示唆された。
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黒潮水と沿岸水との水温フロントの南北移動と黒潮流軸の南北移動は、同期する場合としない場合が見られた。
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[成果の活用面・留意点]
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九州南西海域での黒潮流軸の南北移動を把握できた。西側海域での黒潮の変動を捉えられれば、薩南海域での海況予測も可能であろう。今後は、流速場変動と水温・塩分場変動との関係の把握や沿岸域への影響の把握が必要である。
[具体的データ]
図1 流速ベクトルの分布と黒潮流路の模式図
図2 曳航式ADCP観測測線(赤)と係留位置(青) フェリー航路は測線の東側と同じ
図3 50m深の流速ベクトル分布(50cm/s以上は赤)と黒潮流軸緯度(青)の時間変化
[その他]
研究課題名:九州南西海域における流動構造とその変動特性
予算区分:一般研究
研究期間:平成13〜17年度
研究担当者:種子田雄、中川倫寿、森永健司
発表論文等:薩南海域による海流特性,黒潮の資源海洋研究,4,57-67.
トカラ群島周辺海域における黒潮の流速分布と黒潮流軸の南北移動
(2003年度日本海洋学会秋季大会口頭発表)
フェリー観測による鹿児島県沿岸域のモニタリング
(2003年度水産海洋シンポジウム口頭発表)
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