無節石灰藻を用いたコレクターによるアワビ類着底初期稚貝の採集


[要約]
コレクターによるアワビ類着底初期稚貝の採集を、付着板の条件を変えて試みた結果、付着板に無節石灰藻、ミリオネマを付けることにより採集が可能となり、無節石灰藻を高被度で付着させた場合に最も多く採集された。
西海区水産研究所海区水産業研究部資源培養研究室
[連絡先]   095-860-1629
[推進会議名] 西海ブロック
[専門]    資源生態
[研究対象]  あわび
[分類]    研究
[研究戦略別表該当項目] 2(3)重要沿岸生物資源の生物特性の解明

[背景・ねらい]
アワビ類は沿岸域における重要な漁獲対象種であるが、近年漁獲量が減少しており、乱獲による再生産への影響が懸念されている。アワビ類着底初期稚貝の定量的な採集は、資源状態の推定、アワビ類の産卵期の特定、漁場の特性の把握などに役立つと期待されるため、コレクターによる採集を試みた。これまでコレクターによるアワビ類着底初期稚貝の採集は、東北・関東沿岸で成功例があるものの、それ以外の海域では多くの試みにもかかわらずほとんど成功例がないため、付着板の条件を変えて採集数を比較した。

[成果の内容・特徴]

  1. アワビ種苗生産で用いられている波板の表面に、無節石灰藻を付けたもの、ミリオネマ(褐藻の一種で、一部の種苗生産施設でアワビ類の初期餌料として用いられる)を付けたもの、何も付けなかったものの3種類をコレクターとして用意し、平戸、壱岐のアワビ漁場2カ所に2001年11月から翌年1月まで設置して(写真1)、アワビ類着底初期稚貝が何個付着しているかを調べた。なお、無節石灰藻の被度に差が見られたため、無節石灰藻を付けた波板を高被度(30〜80%)と低被度(5〜40%)の二つに分けた。
  2. 平戸、壱岐の結果とも、アワビ類初期稚貝は11月中旬から12月上旬にかけて採集された。採集されたアワビ類初期稚貝の殻長は0.4〜1.3mmであった。
  3. 付着板の種類で見ると、平戸では無節石灰藻が高被度で付いたものが、低被度のもの、無処理のものよりも有意に多く採集された(表1)。また、壱岐でも高被度の無節石灰藻で多く採集され、低被度の石灰藻、ミリオネマでも採集された(表2)。なお、無処理の波板では両地点とも採集されなかった。
[成果の活用面・留意点]
これまで九州西岸域でコレクターによりほとんど採集されなかったアワビ類着底初期稚貝を採集することに成功した。ただし、今回得られた採集数は、東北・関東沿岸の結果に比べると50分の1程度である。採集数が少ない原因として、分布量の違いの他に付着板の種類や設置方法による違いが考えられるため、今後これらについて検討する必要がある。
[具体的データ]
表1 平戸でのアワビ類初期稚貝の採集個体数。括弧内は1uあたりの個体数。
表2 壱岐でのアワビ類初期稚貝の採集個体数。括弧内は1uあたりの個体数、空欄は設置しなかった。
写真1 海底に設置したコレクター

[その他]
研究課題名:暖流域アワビ類の初期生活史における分布構造の解明
予算区分 :プロジェクト研究「生態系保全型増養殖システム確立のための種苗生産・放流技術の開発」
研究期間:平成13〜15年度
研究担当者:清本節夫
発表論文等:Artificial settlement collector of abalone using crustose coralline algae. 5th International
Abalone Symposium.
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