ポップアップタグによる推定位置と追跡調査でのGPSによる位置との比較
矢野 和成・山田 陽巳・小菅 丈治
(西海区水産研究所石垣支所沖合資源研究室・
遠洋水産研究所近海かつお・まぐろ資源部まぐろ研究室)
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[成果の概要]
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高度回遊性魚類の長期間の回遊調査に利用されているアーカイバル型ポップアップタグの推定位置の誤差について検討した。八重山諸島周辺海域に産卵のために来遊してくるクロマグロ親魚にポップアップタグと超音波発信器の両方を装着して、ポップアップタグが浮上するまでの期間追跡調査を実施し、正確な位置情報が得られるGPSの位置との比較を行った。ポップアップタグによる推定位置は、最大で東方向に3.7°西方向に1.4°南方向に8.5°北方向に3.5°のGPSによる位置と違いがあった。平均誤差は経度で1.4°±1.03(標準偏差、SD)、緯度で2.9°±2.28(SD)であった。
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[背景・ねらい]
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クロマグロは大洋を広く生活の場としている高度回遊性魚類である。北太平洋ではクロマグロが東西を回遊することが標識放流調査や記録型標識を用いた調査により明らかになってきた。北太平洋クロマグロの主要な産卵場は南西諸島周辺海域であることも明らかになっている。しかし、クロマグロ産卵親魚の産卵後の移動・回遊に関するこれまでの知見はない。クロマグロ産卵親魚の移動・回遊についてポップアップタグによる調査を実施した。ポップアップタグによる調査は回遊経路を測定するために有効な手法であるが、推定位置の正誤に問題がある。本調査による結果は、ポップアップタグの推定位置の補正に活用できる。
[成果の内容]
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クロマグロ親魚にアーカイバル型ポップアップタグ(PTT 100, アメリカMicrowave Telemetry社製)と34kHzの超音波発信器(V22TP, カナダVemco社製)の両方を装着して(図1)、ポップアップタグが浮上するまでの期間追跡調査を実施し、正確な位置情報が得られるGPS位置との比較を行った。
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2001年から2002年の間で、4個体のクロマグロ体重(170-230kg)に両機器を装着し、2個体で両機器からのデータの入手が行えた。このうちの長期間追跡した個体での追跡時間は、256時間、追跡距離は1357kmであった(図2)。
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ポップアップタグによる推定位置は、最大で東方向に3.7°西方向に1.4°南方向に8.5°北方向に3.5°のGPSによる位置と違いがあった。平均誤差は経度で1.4°±1.03(標準偏差、SD)、緯度で2.9°±2.28(SD)であった(図3 緯度と経度)。
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GPSで得られた位置とポップアップタグで得られた位置の距離の差は、直接推定位置の場合には100-900km以上、移動平均による推定位置でも約100-400kmの差があった(図4)。
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ポップアップタグの推定位置は、日出と日没の時間から計算される。推定位置の誤差は、クロマグロの日出と日没前後での急激な潜水行動により、正確な日出と日没時刻の推定が行えないことがひとつの原因として推察された。
図1.クロマグロに装着したアーカイバル型ポップアップタグと34kHzの超音波発信器。
図2.ポップアップタグと超音波発信器による水平移動図。
青色はGPSによる位置、ポップアップタグでは機器から直接得られた推定位置(赤色)と移動平均により求めた推定位置(水色)を示した。黄色はポップアップタグ浮上時に人工衛星アルゴスで得られた位置。
図3.ポップアップタグと超音波発信器による追跡調査(GPS)で得られた緯度と経度。
図4.GPSで得られた位置とポップアップタグで得られた位置(機器による直接推定位置及び移動平均による推定位置)の距離の差。
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