屋嘉下口川(やかしもぐちがわ)河口域におけるカイアシ類の分布特性

岡 慎一郎1,2・阿部 和雄1・西濱 士郎1,3・下田 徹1
(1:西海区水産研究所石垣支所海洋環境研究室・2:現、瀬戸内海区水産研究所・3:現、西海区水産研究所
有明海・八代海漁場環境研究科)

[成果の概要]
亜熱帯河口域である沖縄県屋嘉下口川マングローブ水域において、動物プランクトンの分布特性を調査し、カイアシ類のオイトナ ディシミリス(Oithona dissimilis)が引き潮時を中心に出現して、優占することを明らかにした。さらに、本種の鉛直分布が、一般的な昼夜による変化ではなく、満ち潮時には上昇・集群の崩壊・分散、引き潮時には下降・集群形成・局所分布といった、潮汐に応じた変化を示すことを明らかにした。このような分布様式は、河口域における個体群維持に有効な手段と考えられる。

[背景・ねらい]
亜熱帯河口のマングローブ域は、ノコギリガザミ等の資源培養対象種の生息場であるとともに、有用魚介類の幼稚仔にとっての保育場の一つである。このような水域における餌料環境評価は、重要種の資源添加過程及び生息環境を把握する上で重要である。そこで、餌料生物である動物プランクトンの生態、特に分布特性を明らかにするために調査を行った。

[成果の内容]

  1. 沖縄県国頭郡恩納村南恩納の屋嘉下口川マングローブ水域において2002年8月に3時間毎の24時間連続調査(水中ポンプによるプランクトンの定量採集及び水温・塩分等の水質計測等)を実施した。なお、調査水域の水深は1.5〜2mで推移し、試料採取は表層と近底層(底より約30cm)で行った。
  2. 本調査においては様々な動物プランクトンが採集されたが、その中でもカイアシ類が卓越した。カイアシ類の中ではケンミジンコの仲間であるオイトナ ディシミリスが優占し、本水域を代表する種とみなされた(写真1及び図1)。
  3. オイトナ ディシミリスの出現密度は干潮時を中心に高かったが、干潮から満ち潮時にかけては近底層よりも表層の方が高く、一方、引き潮時には表層よりも近底層の方が高かった(図2)。
  4. この結果から、本種の鉛直分布は、一般的な昼夜変化というよりも、むしろ潮汐に対応して変化することが明らかとなった(表1)。
  5. 満ち潮時に上昇・分散し、引き潮時に水底近くへ集合するこのような分布様式は、川を遡る流れを利用した上流への移動と引き潮による海への流出防止に有効であり、これによって本種は河口域に個体群を維持すると考えられる。

写真1 優占種のオイトナ ディシミリス
図1 沖縄県屋嘉下口河口域におけるカイアシ類組成の日周変化。赤部分がオイトナ ディシミリス、他色部は他種。
図2 表層と近低層におけるオイトナ ディシミリス出現密度の日周変化
表1 本研究におけるオイトナ ディシミリスの鉛直分布と一般的な考え方との比較

目次へ戻る